ドリーム小説


記憶を辿って165 あんなにも苦しい世界で生きていたかった理由














ひょこり、そんな効果音と共に現れたのは銀色の髪とぱっつん。

クラスメイトの艶やかな笑みの後ろ、それでも整った彼らの顔は、ひどく綺麗なものに思えて。


「本当、先輩になにしてくれやがるんですか。」


ぱっつんが、立花の後ろから抜け出して、俺が今まで縋りついていたそいつに駆け寄る。

はたはたとその体に手をやって、まるで汚れを落とすようにはたく。


銀色はまっすぐに、その大きな眼球を俺へと向けていて。


「ちょ、喜八郎!!潮江先輩に何するんだ!」

「兵太夫も!」


茫然と座り込んだままの俺に慌てて駆け寄ってきた二人。

知らないと、言い張ることのできない温かな感情がそこにはあって。

水色が怪我はないかと俺に問う。

紫が銀色に突っかかる。



その光景は、何かと、かぶる


「っ、俺は、」


未だにがんがんとひどい違和感を訴える頭。

それらを抑えようと頭に手をやれば再び、衝撃。


「ええい、うっとうしいわ!!」


未だに座り込んだままの俺を遠慮なく足蹴にする。

「ちょ、立花先輩っやめてくださいっ!」


水色が慌ててそれを止めるが、止む気配は見せない。

もう一人、紫は銀色に足止めされていて。


「っ、団蔵、」

止め方がほかに考えつかなかったのだろう。

俺よりも小さな体を、俺の前に押し出して、衝撃から庇おうとする。


それを見て、思わず、口からあふれ出たそれは、その、名前、は___

「っ、潮江先輩!!?」

慌てたように振り返る水色。

驚いたような、それでも期待に満ちたその瞳。


加藤 団蔵


知らなかったはずのそれ

知らないはずのそれ


それでも、その名前が目の前のこいつのものだと頭のどこかで理解はしていて。


「俺は、お前を、知っている・・・?」


ぽつり、口から勝手に出た言葉に、水色が泣きそうに俺に飛びついてきて。


「潮江先輩!僕は団蔵です!加藤団蔵!ほら、これ見てください!」


そう言ってポケットから何やら紙を出してきて俺につきつける。

「なんだ、これは・・・暗号文、か?」

ズラリ並ぶ暗号文のようなそれ、でも、それを理解するのは至極簡単なことのように思えて。


「いや、なぜだ、暗号文のはずなのに、よめる、だと・・・?!」

「やっぱり先輩だけは何があろうとも読んでくれるって信じてましたあああ!!」


意味がわからない、なぜ理解できないのか、ということよりも、どうしてこの字は治ることがなかったのか。


「先輩、僕もお分かりになりますか?」


「・・・田村、三木エ門・・・」


知らない知らないと豪語していたのに、あっさりそれは口から出ていく。

「はい、お久しぶりです。」

ふわり、みせられた笑顔は柔らかく、しみこむ。

ああもう、意味がわからないと、昨日のように全てをなげうって逃げ出してしまいたいのに、それがかなわないことであると本能が訴える。

お前らなど知らないと振りきってしまえばいいと思いながら、その言葉を再び発することが恐ろしくて仕方がない。




だというのに




「なあ、文次郎。もう逃げられないだろう?」


むかつく顔。

いら立つ言葉。



俺にとってどうしてもわかりあえないはずの、そいつは

同時に俺をとてもよく理解している馬鹿で。


「ふざけんな、留三郎。」


あっさりと口に出したその名前。

何の違和感もなく受け止めれば、簡単に、まるで今までそこにあったかのように溢れだす記憶。




あの黒い世界も

赤い色も

鈍い刃も

染まる紅も


あんなにも生きにくい世界で、全力で生きることを望んだその意味も。





簡単に、わかってしまって。








「・・・生ぬるい。」

柔らかな空気へと変換していくその場所に響く、ひどく低い声。

慌ててその声の方向を見れば、立花仙蔵その人が、相も変わらず満面の笑み。


「まさか、それで思い出した、はい終わり、ではないだろうな?」


そのあくどい笑みも、じわりじわり

記憶があいまいに作用するから知らないと言いきれなくて


を泣かせた、それ相応の罰が、あるであろう?」


艶やかな笑みは見る者すべての息を止める。

ちらり、向けた視線の先、とよばれた少女が困ったような表情をしていて。


「さて、宴の時間だ。」


思わず一歩後ずされば、留三郎その人が、これ又楽しげな笑み。



「いっけいっけどんどーん!!」


その上、新たに加わった声が、あまりにも嬉しげに俺に突入してくるから避けることもできず。
ぎゅうぎゅうと苦しいくらいの力で腹にへばりついてくるそれを、引っぺがすには忍びなくて。

「・・・小平太も泣かせただろう。」

ひっそりといつの間にかすぐそばにたたずんでいたそいつが、ひどく怒った声色で俺に言う。

ああもう、まったく。


この世界でこんなにも人との交わりを恐れていたというのに。


この世界であんなにも全てを恐れていたというのに



こいつらはあっさりとそれらを打ち砕く。


「はっ、なっさけねえの。」


ぽつり、つぶやかれた留三郎の言葉にいらりとして言い返しながらも、思い出すのは懐かしき光景。


大事な世界、大切な友。








俺が、あの世界で、あんなにも死んでしまいたい世界でそれでも生きることを望んでいたのは。








ただただ、もう一度こいつらに会いたかったんだ。





























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