ドリーム小説


記憶を辿って166 ようやっと握り返してくれた手は












何、これ。


それを見て、感じたのはそんなこと。

同時にぶわり、湧き上がるのは



怒り。



こんなに怒ったのは久しぶりかもしれないと、そう思うくらいの怒り。



原因などわからないそれは


同時に湧き上がる感情を後押しする。


それが何なのか、わからないはずなのに、


心のどこかでそれを理解していて


ひしひしと湧き上がるそれを、抑える必要性など、感じない。




なぜならばその怒りは、



理不尽なまでに湧き上がる怒りは、しごく当然のものだから










震える手を握り締めて。

頭の中で言葉を紡ぐ。


どうして?


答えを僕は持っていない。

けれど、彼らも持っているわけではないのだろう。



だって、彼らがこうやっていがみ合うのも、喧嘩し合うのも、天から雨が落ちるくらい当然のことだから。



それでも、いつも、迷惑をこうむるのは、僕で



いつもそうだ。



どんなに僕が頼んだところで、彼らは話を聞いてくれはしない。


どんなに僕が望んだところで、彼らは僕から見えないところで事を起こす。



それはもう、日常茶飯事で


それはもう、僕が不運を起こすくらい日常茶飯事で



医務室に向かうところだったから、手に持っていたトイレットペーパーを振りかぶる。



ぎゃーぎゃーと言い合う二人は、僕の存在には気がついてくれていないようだ。





ぶわり、遠慮なく溢れだした怒り。

ふりかぶったペーパー。


視界の端で、ぎょっとした黒髪がこちらを向いたのが見えたけれど、もうそんなのどうでもいい。


思い切り投げたそのトイレットペーパーは珍しくも器用に目的の人物にぶちあたって。


「っ、」

「!?」

驚き、こちらを向いた二人の顔を睨みつけてやった。


「留三郎も、文次郎も、僕がいったこと本当に聞く気がないよねばかあほかすまぬけえええええ!!!!」


ぶわり、湧き上がった感情。


怒りよりも強いそれ。


僕が、再び彼らの瞳に映れているということに

僕が、再び彼らを目にすることができているということに




怒りよりも、喜びが湧き上がって


感情が制御できなくて


あふれだして


見られるのが嫌だから踵を返して歩き出して


そしてすぐにはまるおとしあな。


痛みよりも何よりも、涙がぼとぼとと溢れて仕方がなくて



「っ、伊作!?」




名前が、呼ばれて


駆け寄ってきて、くれて


その目に僕が、うつって


僕を、心配してくれる目で



僕に、手を差し出してくれた。




「お、そい、よっ、


同じクラスだったのに思い出せなかった自分のことなど棚に上げて


溢れる感情をそのままに訴える。



「遅いよっ、留さんのばかああ!!」

なんども僕を心配してくれていたくせに


何度も僕の夢に勝手に現れたくせに

勝手に僕を助けてくれていたくせに



ようやっと見つけた


夢の残像

記憶の残骸


伸ばされた手は


夢ではない温もり

耳に響く声は

確かにそこにあって


僕を見る瞳は

心配で溢れていて


僕を、僕として見てくれる



僕を、常に見てくれていた





大事な友は、ようやっとそこにいた。






















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