ドリーム小説


記憶を辿って168 たとえ自己満足と言われようとも

















「まったく、なんでいきなり泣き出したんだ?」


手を引かれてたどり着いたのは飼育小屋の傍。

授業開始が近づくこの時間にこの場所に訪れる生徒は極端に少ない。

飼育小屋に背を預けて、腕を組みながらどことなく呆れた雰囲気を孫兵は醸し出していて。

ぼろぼろと溢れていた涙。

それはようやっと止まって。

おそらく赤いであろう瞳をうろうろとさせながらその理由を探す。

否、理由は理解していた。

ただ、説明できるかどうか自信がないだけで。


「・・・思い出さなくていいって、ずっと思ってた。」

まっすぐに見つめられるその視線に、耐えきれなくなって、ゆっくりと口を開く。

今まで泣いていたと丸わかりな声。

それに不快な表情を表すこともなく、孫兵は視線で先を促す。


「でも、ああやって、富松君が、次屋君を、神崎君を覚えていないのを目にしたら、やっぱり、思い出さないでいいなんて思えなくて。」


脳裏に浮かぶ、顔も見ずにすれ違う姿。


「私が、動こうと思ったきっかけは、あの三人だから。」


其れがなければ、私はきっと動けなかった。


「あの場所で、あんなにも楽しそうに笑っていた三人が、この世界で、幸せに生きれるはずのこの世界で、出会わないままでいてほしくなんかなかったの」


あの世界とは違って、人の命を奪うことも、奪われることも、恐怖しなくていい世界なのに




あの世界での、ささやかな幸せを、どうかどうか、この世界でも




「ごめん、ただの、自己満足で、ごめんなさい。」



知らないままでなんて、いないで。





あわよくば、私のことも___



ぼろぼろ再び零れた涙を、慌てて拭う。

涙でぐちゃぐちゃのの表情。


それでも孫兵はから離れることはなく。


「だめだよ、そんな風にこすったら。かわいい顔が台無しになっちゃう。」


そんなの腕を柔らかく止めたのは、声と同じく優しい人。

ゆっくりと見上げた先、優しく目を眇めて笑う藤内の表情。

強く握りしめていたその腕を柔らかく緩めるように、藤内がの手を包む。

「はい、これで冷やして?」

冷たいタオルが目元にあてられる。

ふわふわとした桃色の髪がほおに触れる。

目の上をなぞるように優しくタオルが触れるものだから、余計に涙は止まらなくて。


「あのね、ちゃん。僕はすごくすごく君に感謝してるんだよ。」

「・・・数馬、くん」

ふんわり、優しい温もりが頭に乗せられて。

泣きそうに、とてもとても綺麗に笑うものだから、思わずその瞳を見返してしまう。

「ありがとう」

「僕を覚えていてくれて」

「僕とみんなを再び会わせてくれて。」

「ありがとう」


そんなにも、綺麗に、笑うとか、卑怯だ。


























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