ドリーム小説


記憶を辿って169 その姿勢にただ、感謝を









すべてを見ていた。

掲示板の前、たたずむを。

そのそばにたつ三之助を。


楽しげに笑う二人が、とある人物をみた瞬間、堅い気配をまとうのを。

逃げるように去っていった三之助が、の手を振り払う様を。

ひどく、困惑したの気配。

それは、作兵衛がにふれた瞬間顕著に現れて。

狼狽する作兵衛。

その姿はあのころと何ら変わらない。


三之助が去っていった方向を、きっ、とにらみ今にもそちらに駆け出しそうだ。

あわててがそれを止めて、そうすると作兵衛もしぶしぶではあるが動きを止めて。


ようやっと、小さくではあるが、が笑みを浮かべた。


かちり


知っている気配が僕の感覚に引っかかる。

ゆっくりとそちらに目を向ければ、迷子の一人。

すごいスピードで走っているが、おそらく望む場所には向かえていないのだろう。

ばちり、距離があったのに、確かに、視線がかち合った。

ぱちくりとその大きな瞳を瞬かせて、ふにゃり、泣きそうに一瞬だけ笑って。

「っ、さも、」

思わず、手を伸ばして左門の名前を呼びそうになって。

「っ、わ!?」

「すまない!」

でもそれは左門が作兵衛にぶつかることでかなわなくて。


それに膨れ上がった感情。

怒りという名のそれは、ぶわり、あたりに広がって。


ちょっと、よくはないな。


すっ、と偶然を装って、作兵衛の側に近づいて。

わざとぶつかられる位置に止まる。

案の定、僕にぶつかって、そうして作兵衛の意識をこちらに向けて。

「っ、!」


ああ、もう、どうして突然そうなるの?

その瞳からぽろぽろぽろぽろ、滴があふれて。

あわあわと同様をまっすぐに示す作兵衛をそのままに、の手を引く。

おとなしくそれに引かれてくる

任せた、と作兵衛が後ろからそう叫んだのに、手を挙げることで答えて。

呆然と滴を落とし続けるを人気のないところへとむかった。





ごめん、本当は気がついていたんだ。


君がなにをおそれているのかを


君がなぜ涙を流したのかを。


あのとき、君が動き出したとき、確かに君は
彼らを見ていて。

あの世界で共に生きることを許されなかった関係を、ただ払拭したいと君は言った。

自分のための自己満足だと、君は言った。

そんなことはないと、思うのに、言葉にすることはできなくて。

きっと
僕たちだけだったら動き出せなかった。

八左衛門先輩に出会うこともなく
数馬に藤内に出会えることもなく。



はじめにあんなに君を否定した僕だけど

今はこんなにも君に期待している。

君ならば、あの三人を出会わせられると



なあ、

大丈夫だよ。

だって、作兵衛はちゃんとあいつらのことを見ている。

それがどんな意味であろうとも、ちゃんとあいつ等のことを瞳に写している。


それに、左門はきっと思い出してる。

じゃなければ、あのときあんな風に笑いはしない。


まだ赤い目元をこしこしとこする

僕よりも小さいその背はいつもよりもずっと弱々しくて


「だめだよ、そんな風にこすったら。かわいい顔が台無しになっちゃう。」

先ほどからいるのは気がついていたけれど、そんな言葉をかけるとは思わなかったぞ、藤内。

「はい、これで冷やして?」

冷たいタオルはぬらしてきたのだろう。ほわほわ、人好きのする顔に、その場の空気が柔らかく変化する。

「あのね、ちゃん。僕はすごくすごく君に感謝してるんだよ。」

「・・・数馬、くん」

ふんわり、優しく数馬がの頭をなでる。

「ありがとう」

「僕を覚えていてくれて」

「僕とみんなを再び会わせてくれて。」

「ありがとう」


ああ、もう。

せっかくなきやんでいたのに、そんな優しい言葉をかけるから。

ぼろぼろぼろぼろ

また滴があふれ出す。


「僕は孫兵にも感謝、してるよ。」

ふわり、なくと慰める数馬を眺めていれば、藤内が横に立ってとても楽しそうに笑った。



















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