ドリーム小説
記憶を辿って172 その存在がただ単純に嬉しくて
この手で奪ってしまったその命
ただこの場所に再び存在しているという事実
あふれでる喜びは際限なく
この手で奪ったものの未来
私が生きるために
主からの命令で
仕事を見られてしまったから
いくつもの理由はあれど、結果はすべて同じ。
私が、すべて、奪った。
未来も
家族も
世界も
恋人も
私が死んだところで、この世界は何一つ、変わらない。
いくらでも変わりがいるこの身で、それでもなお、生きることを切望した。
人を殺して、殺して殺して
体を赤く染めて染めて
そうして生きていた
たとえ
この手が殺めたのが、
あの箱庭でずっと共に生きてきた仲間であろうと
かわいくてかわいくて仕方がなかった後輩であろうと
乾ききっていたあのころの私には、もうそれすらどうでもいいことだった。
あの世界で、鋭い痛みと共に感じたのは喜び。
もうこの世界で生きていかなくてもいいのだという。
そして罪悪感。
大事な友に、後輩に、この手で奪ってしまった命への___
意識が消えて、真っ暗な闇の中。
もうすべての業から逃れられるのではないかという。淡い期待の中。
次に目を開いたとき、愕然とした。
闇色の世界はそこにはなくて、そこにあったのは、まぶしいばかりの白。
四角い閉鎖されたその空間は、伊作の部屋と同じにおい。
あんなにも自由に動き回れた体は、まったくもって動いてはくれず。
声を上げたそれは、ただのうめき声。
ただ、呼ばれた名前が、あの世界と同じ「小平太」だと言うことだけしか理解できなかった。
私にとって、あの世界とこの世界は一瞬で。
目を閉じれば、すぐに浮かぶ。
人の殺し方など、簡単で。
気配を殺すことなど、息をするくらいに楽にできて。
幼いときにその記憶で混乱して、混乱して、取り乱す私を止めてくれたのは仙ちゃん。
この世界で仙ちゃんが私を見つけてくれなければ、私はすでに狂っていただろう。
この手で奪った命に、出会うたびに、泣きそうで、それでも生きていることがうれしくて。
だから、ずっとずっとあの顔が見つからないことがひっかっていた。
噂では聞いていたから、元気でいるのは知っていた。
けれどあうのは怖くて
だけどがみんなをバイト先につれてきたとき、その姿がないのに落胆した。
そして、思いだした長次が、滝に言葉をもらったと聞いた瞬間、泣きたくて仕方がなくなった。
突発的な体育祭。
脳裏に浮かぶあの学園の最高責任者。
体を動かすことは好きだから、まあいいか、と楽しみに迎えた当日。
「小平太、先輩?」
耳が、小さな小さな声を拾った。
それはずっとずっと謝罪しなければと思っていた相手。
「滝」
ゆっくりとふりむいた、先。
ずっとずっと望んでいたその姿。
かちあった視線が泣きそうに歪む。
生きていてくれるそのことが、こんなにも嬉しい
こっちに向かって走り出すのかと思えば、表情を極限に歪めて、そうして、滝は私へと深々と頭を下げた。
じわりじわり
感情が溢れるのをこらえるように滝が頭を下げるものだから、こちらまでなんだか泣きそうになる。
ああ、もう。
元体育委員会委員長がこれでは呆れられてしまう。
「いっけいっけどんどーん!!委員会の花形、体育委員会!いけどんでがんばるぞー!!」
滝が泣く様をもう見たくはないから。
大事な大事な後輩にはこの世界ではせめて笑っていてほしいから。
声をあげて、右手を突き出して。
くしゃりと歪んだままの滝に精一杯笑って見せた。
「まったく。いけどんで暴君だと言われていた体育委員長が、呆れるな。」
くつくつと仙ちゃんが楽しそうに笑う。
だがしかし、笑われるのは非常に不本意だ。
が、俯いたままの頭を仙ちゃんが優しく撫でるものだから、もう、私も滝みたいにぼろぼろぼろぼろ泣いてしまった。
「滝が、この世界で生きていて、どうしようもなくうれしいんだ。」
「それは、私も思う。・・・皆が今、生きていてくれることが嬉しくて仕方がない」
同学年で唯一同じ痛みを共有する仙ちゃんが、痛そうに笑った。
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