ドリーム小説
記憶を辿って173 幸せの予感
天気は快晴
青い空がじりじりと焦がす太陽を助太刀するようにまぶしく、白い雲が、青とのコントラストで目を楽しませる。
校庭に広がる、ざわめき
楽しげに飛び交う声が、よりいっそう鮮やかにその場所を彩る。
「・・・七松先輩だな」
「本当に、小平太先輩は変わらないよね。」
にぎやかなその場所に、さらに大きな声が響く。
それを聞いた孫兵がため息をつきながら、それでもうれしそうに笑って告げる。
それに対するの表情も穏やかで。
「・・・大丈夫だ。三之助もどっかで聞いてるだろう。」
穏やかな表情の中、潜む陰りをなだめるように孫兵が言葉を紡ぐ。
ゆるり、が視線を向ければ、孫兵の表情はひどく凪いでいて。
首もとには、赤い彼女は存在しない。
それでもいつも彼女が乗っていた箇所を、いとおしむようになでて。
「あの無自覚方向音痴は、バカではないよ。」
なだめるような声色は、じわり、にしみこんで。
こくり、小さくうなずいて、笑う。
「あのね、」
小さな小さな予感。
すべてが今日、変化できるような。
止まりきっていた歯車が、かちりかちり、ようやっとかみ合うような。
そんな小さな予感。
じわりじわり
あふれそうになる感情は、強い予感と共に止めどなく
「今日、きっと何かが変わるよ。」
それはとてもうれしい変化。
「きっと嬉しい日になるよ。」
その言葉に孫兵は少し驚いて、そしてふわり、きれいに笑った。
「それはすごく、楽しみだな。」
「孫兵!」
話していれば聞こえてきたぶ声。
そちらを見れば銀色のぼさぼさ髪を揺らしながら駆け寄ってくる八左衛門の姿。
「八左衛門先輩」
きょとり、呼ばれる理由に心当たりがないのだろう、首を傾げて孫兵は答える。
走ってきたというのに、息一つ乱すことのない八左衛門がにかり、その顔に満面の笑みを浮かばせる。
「っ!?」
「わっ」
くしゃり、八左衛門の大きな手がと孫兵の頭をかき回す。
一通りなでて満足したのかその温もりは離れて。
「孫兵に渡したいものがあってな。」
そういってごそごそとジャージのポケットに手を入れた八左衛門。
でてきた手が握るのは赤い色。
「・・・?」
不思議そうな表情を浮かべた孫兵ににかり、楽しげに笑って八左衛門は言葉を紡ぐ。
「動くなよ?」
そのまま八左衛門の腕が、孫兵の首に延びる。
びくり、体をふるわせてとっさに距離をとろうとした孫兵。それよりはやく、八左衛門は彼を捕まえていて。
「ごめん、ちょっとだけ我慢、な?」
一瞬。
気がついたときには八左衛門は満足そうな表情で孫兵から距離をとっていた。
孫兵の首には赤い布。
それもじゅんこのような茶色のまだら模様が描かれていて。
「せん、ぱい?」
「やっぱり孫兵の首にはじゅんこがいないとな。違和感しか感じなかったから。」
うんうん、と顎に手を当てて、至極満足そうに笑う。
「・・・家に帰れば、じゅんこ、いますよ。」
照れくさそうに、それでもどこかうれしげに。
ふい、と顔を背けて口を開く孫兵。
くしゃり
もう一度その頭をなでて八左衛門は柔らかくほほえんだ。
「なら、今度あわせてくれ。」
ぽんぽん、と軽く頭をたたいてゆるり、八左衛門はきびすを返した。
「んじゃあ、今日はがんばろうな!」
にかり、最後にまた、あのまぶしい笑みを浮かべて。
「の言うことは本当だったな。」
その背中を見送りながら孫兵がぽつりとつぶやいた。
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