ドリーム小説


記憶を辿って174 消えぬ虚無感











「体育祭とか、いきなりなんだよ・・・。」

ぼやいた言葉は空気に混じって。
誰も答えなどもくれるわけもなく。
校庭にちらばるたくさんの姿を、屋上という一番高い場所から見下ろして。


胸の中にこもるわだかまりを吐き出すすべも見つけられず。

ただ一つ、重いため息を落とした。


天気は快晴。

ムカつくくらいの青い空。

本日の体育祭は中高一巻のこの学校全体で行われる。
ということで、校庭に集まった生徒には知らない人が多々存在していて。


知らない奴。

見知らぬ姿。

聞き覚えのない声





だというのに。




じわりじわり



広がるのは不信感。


あれは誰だ?

知らないはずの、その存在。

だというのに、自分の中に答えがあるかのように自問自答。

なんで結構距離があるにも関わらず、それらの姿が目にはいるのか。
なんで見つけるたびにどくりと心臓が音を立てるとか。



知らないと全てみないふりをして、耳も目も口も全てふさいでしまえばいいのに、俺の中の何かがそれをじゃまして。


いらいらする。

この感覚。


答えがない

この感情。


ちらり、

一カ所。

目立つ訳じゃないのに、目が引かれる。

自然と視線が引き寄せられる。

その存在。


 


口に出せば、ひどく不安定なそれ。

気がつけば消えてしまいそうなほどのはかなさはどうしてだろうか。

脳裏によぎる昨日の涙。

ほとり

無意識なのか、あふれたそれはひどく美しくて。

いつもみたいに笑っていてほしいのに、その表情はこわばって。

何が彼女をそうさせたのか。

何が彼女を傷つけたのか。


ぶわりと沸き上がった感情は怒り。


泣かせた相手をめっためたにしてやりたいとか意味が分からないことを思ってしまうとか。


 



再び口に出したそれ。

それは先ほどよりもずっと現実味を帯びて。

はなしているのは彼女と同じクラスの伊賀崎。


「体育委員!!いけいけどんどんでがんばるぞ!」


いきなり響いた大きな声。

そちらを向けば片手を空に突き上げる一人の姿。

その表情は笑み。

どうしようもなくうれしいことがあったのだと、そんな笑み。

ばちり、かすかに出会いそうになった視線を慌ててはずせばそこには先ほどの伊賀崎と

そしてその側に見慣れない銀色。

再び知っていると訴えるように高鳴った心臓を慌てて押さえつけて。

ぐっと手のひらを握りしめて息を吐けばぱちり、今度はしっかりとと目があって。

きょとり、と不思議そうな表情を見せた後、ふわり、優しく笑ってくるものだから。

どくりと先ほどとは違う意味で高鳴った心臓を慌てて押さえた。



心臓の高鳴りはどういう意味のものなのか。

まるで知らない何かをつかめるかのような好奇心

同時に知らなかったという事実を怖いと感じる恐怖心。

どくりどくり

ひどく強く波打つそれを押さえるように心臓に手を当てて。

ずるり、その場に腰をおろしてため息。





いったい何なんだよこれは



つぶやいた言葉は相変わらず答えなどなく。


ただひどい虚無間だけを残した。
















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