ドリーム小説
記憶を辿って175 ずっと会いたかった人がいる
確かにあれは作兵衛だった。
その顔を認識した瞬間、思わず頬がゆるんだ。
それをみて孫兵が不思議そうな表情をしていたけれどなんとなくかわして。
「ごめん、伊賀崎君。ちょっと行くところができたから、開会式でないね。」
「・・・わかった。・・・何かあったら言えよ。」
不思議そうな表情の割に、まるで何かを悟ったかのような苦笑い。それに笑い返して。
開会の挨拶が始まる校庭。
それにゆっくりと背を向けて足を進ませる。
目指すのは、屋上。
「・・・次屋君?ここで何してるの?」
校舎へとむかって足を進ませていれば、なぜか校舎とも校庭とも違う方向に足を進ませる三之助の姿。
見過ごせなくて声をかければ、くるり、こちらに向き直る三之助。
その視線がを射ぬく。
そこでようやっと、そういえば昨日手を振り払われたのだっけ、と思い出して。
一瞬、気まずい空気が広がる。
が、それは本当に一瞬で。
「こそ。」
昨日のことなどまるでなかったかのように。
いつものように言葉をかけてくる三之助。
ばれないように安堵のため息をついて、言葉を続ける。
「探してた人が、屋上にいたから。会いに行くの。」
ゆるり。
この場所からでは見えない屋上の方向へと視線を向ける。
「ねえ次屋君。」
言ってもいいのかどうか。
瞬時自問自答。
だが、動かなければ始まらないと、それは十二分に理解していたから。
ゆっくりと屋上へと向けていた視線を三之助へと戻す。
「一緒に来てくれない?」
きっとあの人に会うべきなのは、私ではなく君だから。
あっさりと頷いてくれた三之助にほっとしながら、校舎の中へとはいる。
屋上はこの校舎の最上階だから、そこまで階段を上っていかなければならない。
が、
「・・・え?」
靴箱で靴をはきかえて、一歩、校舎内へと足を踏み入れた瞬間。
びゅん、と何かが目の前を過ぎ去る。
「進退は疑うことなかれえええええええ!!」
誰かという認識より先に、耳に残ったその言葉。
ついでいつのまにか後ろにいたはずの三之助が足をひょい、とだして目の前を走り去った陰、左門の進行方向をふさいでいて。
つまり
「へぶしっ!」
なんともいえない悲鳴を上げて目の前を走り去った謎の物体、神崎左門は地面とあつい抱擁を交わしていたのだった。
「こんなとこで何してるの?」
「校庭にむかっている!」
「・・・ここ、校舎内・・・」
方向音痴というのは知っていたが、まさかここまでとは・・・。
思わず絶句するをそのままに三之助が口を開いた。
「バカだな、左門は。」
「方向音痴と言ってくれ!」
あっけらかんと会話するその二人。
三之助、先ほどさまよっていたあれは方向音痴ではないのか?
左門。それは自慢できることでもなんでもないのだが?
おかしいであろうその会話。
だがテンポのよいそれは違和感なく交わされて。
そして、気づく。
この二人は、思い出して、いる?
どくり
一瞬で膨れ上がったの緊張にあいも変わらず会話を続けていた二人が不思議そうにを見てきて。
「二人、は、友達、なの・・・?」
ゆっくりと、おそるおそる聞けば、きょとり、ふたりして首を傾げた。
「左門。俺たち友達でいいのか?」
「友達、友達・・・んーなんか、そういうんじゃなくて・・・」
じわりじわり
もしかしてと期待が胸を打つ。
違ったらと心臓が激しくなる。
「・・・ん?そういえば、三之助たちはどこに行こうとてたんだ?」
質問への答え。
それは返されることなく。
まるで言いよどむようにあえて、避けるように。
とくり
先ほどまで大きく音を立てていた心臓はまるで歯車が止まったように固まって。
「が屋上に用事があるらしい。ついて来ただけ。お前も来るか左門?」
そんなを気にする様子も見せず、三之助と左門は会話を続けていて。
そうして気がついたときには屋上に向かう人数は三人に。を真ん中にして、まるでお供を引き連れるかのように右に左門左に三之助。
屋上に向かうだけだというのに、あっちこっち生きそうになる二人の服を慌てて引っ張って階段を上る。
「なんで屋上?」
階段を上っていれば不思議そうに左門が問いかける。
「会いたい人がいるの。」
答えればそうか、とにかりと太陽のような笑み。
「僕もずっと会いたい人がいるぞ!」
突然のその言葉。
収まっていたはずの心臓がじわり、興奮がぶり返す。
「・・・俺も、いる。」
のしり、との足を止めるように、三之助が後ろから抱きついてきて。
その高い身長を生かしての頭に顎を乗せる。
「次屋、君、神崎、君・・・?」
先ほどまでの様子はそこにはなくて。
あっけらかんとしたいつもの三之助ではない。
にかりと太陽のように笑う左門ではない。
「俺たちもずっと会いたい人がいる。」
ぎゅう、とすがりつくように回された腕が強さをまして。
の位置からでは見えない三之助の表情。
思わず手を伸ばして、その頭をなでたくなって。
「おめえ等、に何してやがる?」
それは、そんな声に遮られた。
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