ドリーム小説
記憶を辿って176 赤い手と赤い頬
「おめえ等、に何してやがんだ?」
声と共に現れたのは、今まさにが会いに行こうとしていた作兵衛で。
でも、その顔に浮かぶのは、無。
まったく興味がないとそんな瞳を左門に、三之助に向けて。
その視線を受けて、びくりとすがりつく三之助の体がふるえた。
左門の手が、ぐっと握りしめられるのが見えた。
一つ、また一つと階段を下りる度に、無から有へ。
それも怒りという感情へ塗りかえられるように。
ぶわり、ぶわりとあたりに蔓延するその感情。
「おめえ、昨日を泣かした奴だろう?」
ゆっくりとのばされた腕が、人差し指が、に向けられて。
それが指すのはにすがりついている三之助で。
ぎゅう、とさらに腕の力が強くなる。
「おめえは昨日俺にぶつかった奴だろう?」
そのまま、ふい、とはなされた視線はついで左門へと向けられて。
左門の口が、何かをいいよどむように動く。
だがそこから言葉は吐き出されることはなく。
再びたちに向けられた視線。
そこにあるのは明らかなまでの怒気。
「から手ぇ離せよ。」
伸ばされた腕は三之助の腕をはたき落として。
ぐい、とを引き寄せて、自分の後ろへと隠すように。
「富松君、」
状況についていけず慌てて名前を呼ぶがそれに対する返事はなくて。
「作兵衛」
その言葉は、誰のものだったのか。
気がついたときは乾いた音ともに、ふりおろされた後の作兵衛の右手が
赤く頬を張らした左門の左頬が、あった。
「っ」
「富松君!?」
驚きで思わず叫ぶ、だが誰よりも一番驚いているのは作兵衛その人のようで。
勝手に動いたかのように、右手を見下ろして。
かすかにふるえるその背中。
「さくべ、」
頬を真っ赤にはらしたまま、それでもまっすぐにこちらを見てくる左門が、再び作兵衛の名前を呼んで。
「作」
それに便乗するように、三之助もなを、呼んで。
「っ、るさっい、っうるさいうるさいうるさいっ!!!」
それをまるで振り切るかのように叫ぶ作兵衛。
「作」
再び呼ばれれば、ぐっ、とその手のひらが握られるのが見えて。
「おめえ等いったい何なんだよ!!!何で俺の名前を知ってんだ、何で俺の名前を呼ぶんだよ!!!」
怒りがあふれるように
苦しみから逃れようとするかのように。
叫ぶ叫ぶ
吐き出す吐き出す。
「俺はおめえらなんか、」
その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に動いていた。
「知らっ__」
「だ、め、富松君、それはいっちゃだめだよ。」
後ろから前に回り込んで。
言葉を吐き出していたその口を両手でふさぐ。
それ以上言わないで
それ以上はなさないで
それ以上を口にすれば、きっと君が一番傷つく。
驚いた作兵衛の顔よりも何よりも自分の行為に自分自身が一番驚いて。
「だめ、だよ富松、くん。それいっちゃったら、富松君自信が傷ついちゃうから、絶対に、だめ」
それでも言葉は止まることを知らないかのようにあふれだす。
「ん、だよっ、」
ぱしり
乾いた音と共に払われた手は微かに熱を持って。
作兵衛の表情に浮かぶのは先ほどとは違い困惑。
そして、痛みをこらえるかのように瞳は揺れて。
「富松君___」
落ち着けるように名前を呼べば、ふわり、ひどく痛々しい笑みが返されて。
「頼むからさ、もう俺に関わらないでくれないか。」
同時に放たれた言葉は、ただただ胸をひどく痛めるものだった。
じわり
消えていった背中。
滲む涙をこらえるように俯く。
彼にしてみればわからないことだらけで。
彼の反応は当然で。
ぐっと、手のひらを握り締めた
その瞬間ふわあり温かな温もりが体中に走った。
驚いて顔をあげれば制服の黄緑色のネクタイが目に映って。
「ありがとな!」
何かを認識する前に降ってきた言葉。
「作を止めてくれてありがと」
囁くように耳元で響く声は柔らかく耳朶に響く
目の前の彼はぎゅうとしがみつくように。
後ろの彼は包みこむように。
「俺らがさっさと行動すればお前にこんな思いをさせずに済んだんだ。」
ぎゅうぎゅうと体を押しつけながら左門は話す。
「俺たちが怖がって近づかなかったからこんなことになったんだ」
肩口に顔をうずめながら三之助は続ける。
「・・・え?」
それらの言葉に理解が追いつくことはなく、ただただ言葉だけが頭に沈みこんでいく。
「ごめん、せっかく気づかせてくれたのに」
「ごめんな、ようやっと思い出せたのに。」
「つぎ、や、くん・・・かんざき、くん・・・?」
「覚えてるよ。昔のこと」
「正確には思い出してたよ。」
「ちゃんとのことも知ってるよ」
そう呼ばれたことに心が
歓声を上げた。
それは、思い出してくれたということよりも、記憶が正しかったことを喜ぶように。
「が僕たちを引き合わせてくれたから。」
「だから俺らは思い出せた。」
「僕は入学式のとき作を見て思い出してたぞ!」
「俺は左門を見て。そこでようやっと思い出した。」
「ほんとはすぐにでも作ってよんで駆け寄りたかった。」
「作が覚えてないってこと、思い出せていないままなんだってこと、理解してたけど。」
「怖かったんだ。作に否定されることが何よりも」
「お前らなんかいらないって、迷惑だって」
「大嫌いって、否定されるのが怖くて、」
「だから、知らないふりをしてた。」
「結果、につらいことさせた」
「ごめん。」
「あの時の僕の願いを、、お前は叶えてくれたな。」
にかり
その笑顔が涙で滲んで。
同時に浮かぶ、少し前の記憶。
運動場で泣きそうに笑う左門の姿。
その口が小さく紡いだ
『たすけて』
の言葉。
それがを後押ししてくれていた。
ぐっ、とさらに強く抱きしめられて
「次は俺らの番だ」
「ありがとう、」
「まってろ、思い出させてやるから」
「いってくる」
その言葉と同時に離れた熱は鮮やかな風のように姿をくらませた。
「まったく。なんでが泣くのかなあ。」
呆れたような声色はそれでも柔らかな色を鮮やかに色だたせて。
ただただぽろぽろ溢れだす涙は止まる気配も見せず。
「」
座り込んでいるの目の前
視線を合わせるようにしゃがみこんだ彼。
特徴的な髪が肩を滑る。
端正な顔を柔らかく緩めて。
そっと溢れるの涙を指でぬぐう。
「は優しすぎるね。」
優しいその指はただの涙を促進させて。
「あ!勘右衛門がを泣かせてる!!」
ぽろぽろと流れるそれをそのままにしていれば、廊下に響いた声。
ゆっくりと視線をそちらに向ければ四つの姿。
「あんまり泣くと、目が腫れちゃうよ?」
優しく布を差し出してくれる雷蔵。
「ほら、泣くと喉が渇くだろう?」
ペットボトルを渡してくる八左衛門。
「俺が泣かせたんじゃないよ?」
「だがまあはたから見たら勘ちゃんが泣かせたみたいだったけどな。」
勘右衛門が兵助が、困ったように笑いあって。
「・・・!」
最後に叫んだ三郎は、何故かその両腕をバッと広げていて。
「俺の胸で泣けばいい!」
ぽかんとするの横、雷蔵によって地面へと伏せていた。
※※※※※※※
最後に誰を持ってくるかで迷って迷って・・・
当初の予定は孫兵だった。
だが孫はさっき出したなあと考えて、一番出現率が低く感じていた五年生降臨。
そして完結まであとちょっと!
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