ドリーム小説


記憶を辿って177 求めるものは怒りではなく
















「会いたい人がいるの」


泣きそうに体を揺らすものだから、抱きしめずにはいられなくなって。

ぎゅう、と後ろからその小さな体を抱きしめれば小さく震える肩に気がつく。

こんな小さな体で、この学校中を駆け回っていたのか、この女の子は。


こんなにも思われるあいつが、少しだけ、ほんの少しだけ羨ましく感じた。


左門が同意したから、俺も同じように同意して。


それでも互いに其れが誰かを追及しない。





きっとそれは、誰のことを言っているのか、皆わかっているから。





俺が左門に話しかけた時、はひどく驚いていた。

それもそうだろう。

俺はといるときに左門に会ったことはない。

左門と話しているのを見られたことはない。

それどころか、俺自身、あまり左門と触れ合うことというのはなかったから。



でも、が動いているのはなんとなく、知っていた。



高等部の先輩に絡まれたり、一年の子たちにひっつかれたり。


ふわふわその顔に笑みを浮かべて、本当に嬉しそうに、安心したように笑うから、



俺も、助けてもらえるんじゃないかって言う、期待を抱いて。



一人、また一人、記憶を取り戻す人を見るたび、次は、次こそはと、他力本願に祈って、願って。



だって、だって、自分から動くことはものすごく怖いことで。

あの頃とても大事だった存在に、知らないと、目をそらされるのが、とてつもなく耐えきれなくて。



だから手を出すことも、言葉を紡ぐこともなく。



ただただ、自分の都合のいい時だけ、に擦り寄っていって。




今もそうだ。



が会いたいと願うのは、作兵衛で。

でも作兵衛は俺たちを知らなくて。

俺は作兵衛を知っていて。

でもそのことをは知らなくて。



知らないふり、見ないふり。


きっと、今日もまた作兵衛が俺たちを見なければ、俺たちも作兵衛を知らないふりをするのだろう。



ぎゅう、とさらに強くの体を抱きしめる。

温かなその温もりが、今はただむなしい。




「次屋、君、神崎、君・・・?」


心配げな声に、しぐさに、また一つ俺は縋りつく。



「俺たちもずっと会いたい人がいる。」



どうしようもないくらい、互いの存在以上に、大事で大切で大好きな存在






なあ、どうしたら、作は俺らを呼んでくれるの。





「おめえ等、に何してやがる?」




その声は、ずっと聞きたくて聞きたくて仕方がなかったもの

でもその声色は、ただ願いがかなわなかったことだけを如実に表していた。





















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