ドリーム小説


記憶を辿って178 いちばん愚かなのはこの僕で






















三之助は臆病だ


会える距離にいるのに、声が聞こえる距離にいるのに




その手を差し出すことも声を上げることもせず


ただただその小さな体に縋りついて









そしてそれを甘んじてみているだけの僕ほどみにくい者はないとも知っていた











「おめえらに何してやがんだ。」




響いた声は、ずっと聞きたかったもの。

それでも込められる感情はほしくはなかったよ。



怒りなど、知りたくはなかった。




向けられる視点は鋭い声と同じ。

そこに俺らを思う色はない。



痛い

胸が痛い

突き刺さる視線が痛い

僕に向けられる沈黙が痛い



やめて作。

お願いだから、



僕を見て

僕を見て


お願いだから


僕を___



「作兵衛」


こらえきれない感情は言葉となってその場に落ちる。

向けられていた視線が一度大きく見開かれて、そして鋭い者に変わって。


三之助の腕の中からを引っ張って、後ろにかばうように、守るように。


どうしてどうして?


わかっている、頭ではわかっているのに



心が痛みを訴える。



さくべえ


呼んでも呼んでも、言葉はただ落ちるだけ。

それは作兵衛に届かない。



壊れた機械みたいに、何度も何度も溢れる思いをそのままに三之助と二人名前を呼べばぶわり、広がる困惑と怒り。



「作」



あの頃ずっと呼んでいたそれをまっすぐに目を見つめて告げる。


同時に広がる痛みと音。

頬に感じる熱。

目の前で困惑をあらわにする作。


自分の手を信じられないように見つめて、俺を見て。

その口が小さくごめんと動いて。


「さくべ、」


何度も何度も、繰り返す。


「作」


便乗するように、三之助も呼んで。



「っ、るさっい、っうるさいうるさいうるさいっ!!!」



全てを振り切るように。

まるで逃げるように。



「おめえ等いったい何なんだよ!!!何で俺の名前を知ってんだ、何で俺の名前を呼ぶんだよ!!!」


怒りがあふれるように

苦しみから逃れようとするかのように。

叫ぶ叫ぶ

吐き出す吐き出す。


「俺はおめえらなんか、」



やめてやめてやめて  ききたくなんか、ない



「知らっ__」



その先の言葉はの小さな手によって遮られて。




「だ、め、富松君、それはいっちゃだめだよ。」



優しい声が、僕等を柔らかく包み込むように。




その言葉を聞いていたらきっと僕等はもう作兵衛に近づけなかった。

これ以上嫌われるくらいならと。



僕ら以上に泣きそうなが必死に作を止めていて。

必死に声を張り上げて。



ああ、どうしてどうしてどうして

無関係のはずのが、この子が、こんなにも頑張ってくれているのに。

泣きそうになりながら、こんなにも精一杯体を張ってくれているのに。


どうして僕は、僕たちは




ごめんごめん違うんだ本当は。

三之助が待ってと言ったから。

だから動かなかった。

そうじゃない。

ただただ、僕自身も怖くて怖くて。





「頼むからさ、もう俺に関わらないでくれないか。」



その声と同時に離れていく作。

それに崩れ落ちるがあまりにも小さくて、愛しくて。





抱きしめて必死に縋りついて。


何度も何度も感謝と謝罪を。





そして次は、僕たちが動く番だと。







僕の言葉にぼろぼろ泣くその姿が、どうしようもないくらいに大事だと思った。












今度は君を、笑顔にして見せるから。



だからもう少しだけ待ってて。























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