ドリーム小説
記憶を辿って179 逃げて逃げて逃げて?そうして最後は
本当に本当に、意味が分からない。
名前を呼ばれたときに沸き上がったこの喜びみたいな感情も
俺をまっすぐに見てくるあれらの目が含む激情も。
意味が分からない
どうして俺の名前を呼ぶんだよ
なんで俺を知っていると示すんだよ
俺はお前等など知らないと大声で叫んで叫んで
その言葉はの手で留められて外にでることはなかったけれど
あの二人の苦しさに彩られたあの瞳を見ていられなくて。
自分自身のことがもうわからなくて
あの場所から逃げ出した。
走って走って。
すでに競技が始まっていた校庭。
知らないはずの人々の姿が、目に入って、泣きそうになる。
なんでなんでなんで
おれはだれ
おれはだれ
おれは、なに?
ぐしゃぐしゃに膨れ上がる怒りだかなんだか意味が分からないそれら。
もういやだと嫌いだと叫んで叫んで叫んで
この場所からも逃げて逃げて逃げて
しまいたかったのに
「作兵衛!」
呼ばれる自分の名前。
この学校で俺をその名前で呼ぶ奴なんて、ほとんどいないというのに。
どうして、懐かしいとか思うんだ?
ゆっくりと振り向いた先。
そこにあったのはふわふわの桃色髪をなびかせた奴。
知らない知らない
今までみたいに無視できればよかったのに
何があったのか、俺の足は止まって。
「左門と三之助がまたどっか走って行っちゃった!」
ふわふわの髪が揺れて揺れて。
まるで俺の心をかき回すみたいに
左門も三之助も先ほどいたあの二人。
でも何でそれを俺に報告するんだ
意味が分からない
「今孫兵と藤内が追いかけてるけど___」
「何でそれを俺に言うんだ?俺はあいつ等なんて知らねえし、興味もない。なんで俺にそれを言うんだよ!」
その穏やかな声色を遮って、かみつくように言葉を吐く。
それにきょとりとしたそいつは一拍後ふにゃりと笑った。
「だって迷子の保護者は作兵衛だって、ずっと昔から決まっているんだもん。」
それはそれは楽しげに、俺の怒りなどものともせずにそいつは笑う。
「大丈夫だよ作兵衛」
なんの確証があって、そんなことを言うのか。
何がいったい大丈夫なのか。
それでもその笑みはどうしようもないくらいに優しくて。
「だってほら、僕だって、藤内だって。こうやって、ふぎゃっ!?」
一歩、そいつが足を踏み出した瞬間、なぜか目の前の桃色は姿を消して。
「・・・は?」
思わず俺の口から漏れた間抜けな声。
「いた、い・・・。」
それに答えたのは姿を消した桃色で。
ぴよぴよと、頭にひよこを浮かべるように目を回しながら桃色髪はひょこりと顔をのぞかせる。
「うう、綾部先輩相変わらずどこにでも落とし穴作るんだから・・・」
落とし穴
こいつが漏らした言葉でようやっと状況把握。
つまり、一歩踏み出した先、そこは落とし穴で。
例にも漏れずこいつはきれいにその穴にはまったと、そういうことで。
「・・・大丈夫か?」
思わずそんな言葉をかける俺はおかしくないはずだ。
「ふふふ、大丈夫だよ。だって日常茶飯事だからね。」
ふらふらになりながらもにぱり笑い返されて。
それは頭の中、何かとかぶる。
相変わらずだなあ、そんなことを思った俺にどきりと、した。
「ほら作兵衛、二人を追っかけなきゃ、ね?」
その言葉に背中を押されるように足は動き出して。
どうして俺が?
口をついてでそうになった言葉は、なぜか、のどの奥に張り付いたまま。
いったい何がどうなってるのか、わからないわからない、そう思うくせに、足はまっすぐに進むんだ。
なあ、どういうことかなあ
※※※※
どこまでもしまらないのが数馬です。
back/
next
戻る