ドリーム小説
記憶を辿って180 とてもとても感謝しているのです
作ちゃんの背中を見送って、痛むからだを穴から出して。
そうしてふうわり、笑う。
作ちゃんはいつもいつも、あの二人が大切で、あの二人に振り回されて、それでも楽しいと笑っていたから。
もう一度、笑ってほしいんだ。
あの二人と一緒に。
「まったく、僕たち保健委員じゃなくて、普通の一般生徒が落ちたらどうするんですか?綾部先輩。」
後ろにふわり現れた気配に怒るわけではなく、それでもとがめるように声をかける。
「落ちるのは保健委員だけでしょ?」
あっさり、なんの感情も見いだせないその表情は言葉を紡ぐ。
まあそれも間違いじゃないものだから、僕もこれ以上は口を挟めなくて。
「さっき、藤内と伊賀崎が走っていたけど。」
「三之助と左門を追いかけてくれてるんです。」
先ほど三人でいたときに見つけた二つの背中。
それは一心不乱に何かを探すように足を進めていて。
瞳は強く、まっすぐに何かを求めるように。
曲がり角で見事なくらいに正反対に進み出した二人を慌てて藤内と孫兵が追いかける。
「数馬!作兵衛に伝えて!」
「絶対来るから!」
その言葉を背に受けて、探し始める作ちゃんの気配。
それは隠すこともせず、だだ漏れな気配。
どうしても思いだしてしまった僕たちは、自らの気配を断ってしまう。
誰に探されて困る訳じゃないのに、誰に見つかっても危ない訳じゃないのに。
まるで癖のように。
だからこそ、その気配がとてもよくわかってしまう、作ちゃんはつまり、まだ記憶が戻っていないと言うことで。
それでも、あの二人をとめられるのは作ちゃんだから。
走って走って見つけた先、あの迷子の二人以上に不安定にふらふらとさまよう姿。
何かをおそれる背中。
それは放っておけないもので。
名前を呼んで言葉を紡いで。
今の僕にできる精一杯の言葉を君に
まあ、綾部先輩の作った穴に落ちるとか、想定外の通常装備が起こったりはしたけれど、それでも僕の言葉に足を動かしてくれたから。
「綾部先輩。」
「何?」
大きな接点はなかったけれど、藤内の委員会の先輩だった人だから、なんだかんだで僕にかまってくれた不思議だけど柔らかな先輩。
僕の言葉にこてりと首を傾げて先を促す。
「ちゃんが動き出したきっかけって、あの三人なんですよ。」
「あの三人がああやって仲違いしてなかったら、きっとちゃんは動かなくて、僕たちはあのままで。」
「僕ちゃんにすごく感謝してるんです。」
ゆっくりと僕の紡いだ言葉に頷いて、先輩は僕の横に座り込む。
「私も、だよ。がいたから、滝は思い出してくれた。」
「がいたから、仙蔵先輩に会えた。」
「がいたから、今の私がある。」
「あの小さな体では精一杯私たちを守ってくれて、助けてくれた。」
ふんわり、小さく、それでもきれいに先輩は笑った。
「だから今度は私たちがを守ってあげなくちゃね。」
「数馬!」
「数馬先輩っ!」
綾部先輩に僕も笑いかえせば、後ろから聞こえてきた懐かしい声たち。
「けがしたの!?だいじょ__っうわあっ!?」
優しい優しい先輩の声はあっさりと地中に消えて。
「わ!?先輩だいっ、うきゃああ!?」
かわいいかわいい後輩たちの姿もそれに巻き込まれて
思わずみた横の綾部先輩はそれはそれはとてもいい顔をしていた。
「だあいせいこう」
たとえ世界が変わろうと
時代が変化しようと。
どんな時でもどんな場所でも、この人は変わらないのだ。
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