ドリーム小説
記憶を辿って182 二度と離れることのないように
「まったく、作兵衛もえらく難儀な奴だなあ。」
先輩先輩とへばりついてくるしんべエたちをあやしながら、作兵衛が走って行った方向へ目を向ける。
俺を見て、動揺して、俺の手をふりはらって。
そのくせ其れをした自分に驚いて、泣きそうになって。
から回って、どうしたらいいのか分からなくなって、動けなくなる。
まったく。
後輩だからと言ってそんなところまでになくてもいいというのに。
「留三郎先輩!」
ぎゅうぎゅうと足にくっついてくる喜三太を抱き上げて抱きしめ返す。
きゃあきゃあと嬉しそうに声を上げるそれは可愛くて仕方がない。
「先輩、僕も僕も!」
そう言いながらしんべエが手を伸ばしてくるからしゃがみこんで二人まとめて抱きしめる。
「先輩・・・」
不安でたまらない、そんな感情が多分に含まれた言葉が小さく響く。
平太が作兵衛が去って行った方向を見ながら泣きそうになっていて。
「平太、」
名前を呼べば、へちょりと眉を下げながらもこちらに近寄ってくる。
「大丈夫だ。」
先ほど作兵衛にも向けた言葉。
今度はゆっくりとかみしめるように、希望を込めるように。
「作兵衛は今ちょっと迷子になってるだけだ。」
ゆっくりと平太の頭を撫でてやれば、猫のように目を細める。
「作兵衛先輩、迷子なんですか?」
しんべエがきょとりと首を傾げて問う。
「いつもは迷子を捜す方なのにねぇ。」
喜三太がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「なら、今回は逆に見つけてもらわなきゃなんですね。」
にっこり、笑う喜三太の表情はひどく穏やかで、遠く、作兵衛が去って行った方向へと向けられた瞳は非常に柔らかい。
あの頃、あの世界で次期風魔の頭領候補であったこの子。
時折ひどく大人びた表情を浮かべて、何もかもを悟ったように笑って。
年相応に見えるのは、同じは組の子たちがいるところだけだった。
「喜三太。」
そんな表情を見たくはなくて、ぎゅう、と再び引き寄せて抱きしめる。
この世界ではもうそんな瞳をしなくてもいいのだと、
この世界では望むままに生きてもいいのだと。
俺たちはそれを知っているし、理解している。
それでも、未だに迷う心はあって。
自分を殺して、生きる生き方は苦しくても時に穏やかな感情を俺たちに与えるものでもあって。
「先輩、先輩。」
くい、と引かれた袖。
見れば平太が困ったように、それでもふにゃりと確かに笑っていて。
「今度、皆で一緒に御飯とか食べに行きたいですね。」
今までの感情を見透かすように、なだめるように。
ああ、本当に俺はこいつらに何度も何度も救われている。
「そうだな。作兵衛とそれから保健のやつらでも誘ってな、ご飯食べに行ったり、遊んだりしような。」
愛しくて大切で仕方がない温もりをもう二度と離れることのないように、祈りと共に抱きしめた。
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