ドリーム小説


記憶を辿って183 迷子の俺を探してよ















大丈夫





そんな言葉、役にも立たない。


だというのに、どこか、安心してる自分がいた。




留三郎先輩。


名前を教えてもらったわけじゃない。

それでも、その名前はすんなりと頭の中に浮かんで、

未だにあやふやなことばかりだけど、それでもあの人はとても頼れる人だと、優しい人だと。


それは何故か知っていて。


頑張れと、背中を押すような笑みで送りだされて、足は、勝手に動いていて。


何処に向かっているのか、

誰を求めているのか、


わからないようで、体が覚えているようで。


勝手に体は、記憶に刷り込まれたように動く。




知らないはずの景色は、いつしか色鮮やかに俺の中に組み込まれて


習ったはずのない知識が、まるでもとから知っていたかのように蓄積されて


聞いたことのない声が、俺を呼ぶことを当然のように甘受して




ゆっくりと、『俺』が、変化する。




じわりじわり、内から溢れる感情は、とめどなく。



浮かぶ映像はどれも俺の涙腺を刺激するがごとく、広がって。



ノイズがかっていた幾つもの顔は、鮮やかに、色濃く、俺の中に生まれる。


大事な友や、先輩や、後輩や、仲間たち。


俺を支えてくれていた多くの手。


俺を受け入れてくれていたたくさんの人。



知らなかった、だなんて


思い出せなかった、だなんて



一歩、踏み出すごとに、増えていく情報。

それは、今の俺にとって、泣きたくなるほどひどいことばかり。


何度も何度も俺の名前を呼んだのは、俺にとって大事で大事で、どうしようもなく大好きな奴らだったのに。




ぬるま湯のようなあの箱庭で築いたのは、一生消すことなどできない絆だったというのに。




それを、俺はあんなにも簡単に、記憶から遠ざけていて。



逃げていたのは体か、記憶か。





一歩一歩、踏み出すごと、次に浮かぶは泣きそうなあいつらの顔。


目があって、そらしたのは俺。


それに泣きそうに表情を歪めたのは三之助。


にかり、あの頃と同じように笑いかけてくれたのは左門。


それを何のつもりだと睨みつけたのは俺。





あいつらを、傷つけるだけだった俺を、優しく諭してくれたのは、



俺があいつらにぶつけそうになっていた言葉を、あの手のひらで、体全部で防いでくれて。



なのに、それに俺はもうかかわるなとひどい言葉を返して。







ああ、なんてひどい。


あの頃の俺を、俺はどうして許せていたのか。










走って走って走って。



この世界で初めてこんなにも俺は体を必死で動かしている。



いきて、いる



「作兵衛!?」


「あっち、あっちに二人とも走っていったよ!!」


視線の端、二つの影が俺に言葉を投げる。



なんで俺に言う、なんで俺はそれに従う!?



その答えは、もう随分前に見つけていたんだ。




「っ、お前らだから勝手に動くなと言っている!!」


「お前もだっ、なんでそっちに行こうとするんだ!!」





見つけた先、合計4つの影。



それでも俺が向かうのはそのうちの二つ。


きょとりと、首をかしげる三之助

嬉しそうに、にぱりと笑う左門。





ああもう、俺が悪いというのに、それでも今の俺がお前らに向けられる言葉はこれなんだ。







「っ、おめえらっ、ばっかやろおおおおお!!」


精一杯伸ばした手を、二人の首に巻き付けて。


「なんで、なんでっ、」



溢れる感情を、止めるすべを、俺は、持たぬまま



「いっつもいっつも、おめえらが迷子になった時は、俺が見つけてやってるだろうがっ!!」




どうしてどうして、俺はどうして、お前らは、どうしてっ



「なんっで、おめえら、おれをさっさとみつけにこねえんだよ!!」



もっとはやく、おれのことを



「三之助と左門の、ばっかやろおおおおおおおおお!!!!」






迷子の俺を、早く探しに来いよ馬鹿野郎






触れたぬくもりが、ただ、懐かしくてしかたがなかった






今ここに、触れられる距離に、共に生きれる場所にいる。

























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