ドリーム小説


記憶を辿って184 名前を呼ばれることがこんなにも幸せだとは














触れたぬくもりが、ただ、懐かしくて。


そして、俺の名前を呼んでくれたことが、どうしようもなく、嬉しかったんだ。












の小さな体を離して、涙の滲む瞳を見つめ返す。


小さく笑えば、ふにゃりとその表情が緩む。


頭をそっと撫でて、左門と二人目を合わせて頷き合う。






足を動かして、目指すは一人の人物。



富松作兵衛



俺に、俺と左門にとって、大事な大事な仲間。

俺たちを常に、前へとすすませてくれた、大切な友。


あの世界で共に生きた、かけがえのない存在。



あの頃と同じで、またあいつは迷子になっているのだろう。


ならば早く迎えに行ってやらなければ、





走っている最中、目の端に映った桃色。

ちらりとそちらに目をやれば驚いた表情。

そしてそのそばにいた孫兵が、藤内が、慌てて俺らを追いかけるように動き出して。


「三之助!」

「左門!」

俺らを呼ぶ懐かしい声。

それはつまり、思いだしているということ。


あの世界で、共に生きた記憶を持っているということ。


「孫兵、藤内!」


走る足は緩めずに、顔だけ後ろに向けて名前を呼ぶ。

一瞬ぎょっとした表情をして、それでも二人は再び口を開く。


「お前ら何処に行くんだ!」


孫兵の言葉に今度は左門が答える。


「作兵衛を迎えに行くんだ!」


久しぶりに真正面から見た左門の笑み。

嬉しくて仕方がない。


「いやいやいやいや!ちょっとまって!何処にいるかわかってるの!?」


藤内の慌てた声。


「勘!」


あまりにも潔い左門の答え。

がくりと藤内が肩を落とすのが見えた。


「大丈夫だ!問題ない!!」


「いや、ありまくりだから・・・。」


孫兵の呆れたような声。

それでもそこには柔らかな安心したような声色がまぎれていて。


「いつもいつも、作兵衛は迷子になるからな。今回は俺たちが見つけてやらないとな。」


大事な大事な友人は、いつも肝心なところで迷うから。

足踏みしてしまうから。

だからこそ、今回は俺が、俺たちが迎えに行ってやらないと。



後ろから聞こえていた足音が消えた。

思わず振り向けば、とてもとても優しい表情で、孫兵が微笑んでいて。

藤内が、とてもとても嬉しそうに手を振っていて。


横にいる左門を見れば、にぱり、明るい笑みが帰ってきて。




「はやく作を探しに行ってやらないとな、さみしがり屋だからな。」



一歩一歩、足を進めるたび、鮮やかに変わっていく景色。



あの世界では最後まで共に生き抜くことはできなかった。



それが、きっとこの世界では実現できる。



そのために、必要な一歩を、ひとつ、またひとつ。







「あ、滝夜叉丸。」


「あ、田村先輩。」


目の前、みたことのある背中。

思わず名前を呼べばぎょっとした顔で振り返る二人。



「三之助っ、先輩をつけろといつもいってるだろうが!」

「左門!お前そのまま何処に行く気だ!?」


変わらぬ声で、同じ言葉を投げかけてくるものだから、なんだか、泣きそうになる。


あの世界の一つ一つが、見える形となって、俺たちの前に存在しているように。


手を伸ばせば全てに手が届くかのような錯覚に。



「っ、お前らだから勝手に動くなと言っている!!」


「お前もだっ、なんでそっちに行こうとするんだ!!」




滝夜叉丸の怒鳴り声すら懐かしい。


後一つ、後一つ足りないそれが、埋まれば___




ざわり


慣れ親しんだ気配は、突風のような勢いと共に。













「っ、おめえらっ、ばっかやろおおおおお!!」





精一杯伸ばされた手は、俺たちを必死で捕まえるように。





「なんで、なんでっ、」




言葉と共に溢れる雫はぼとぼととみっともないくらいに。





「いっつもいっつも、おめえらが迷子になった時は、俺が見つけてやってるだろうがっ!!」




叫び声にも近いそれは、悲鳴のように俺の心に突き刺さって。





「なんっで、おめえら、おれをさっさとみつけにこねえんだよ!!」




感情をそのまま直球でぶつけられて、つられてこちらまで泣きそうになって






「三之助と左門の、ばっかやろおおおおおおおおお!!!!」








ただただ呼ばれた名前がどうしようもなくうれしくて仕方がなかったんだ。


































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