ドリーム小説







記憶を辿って19  きみとの接触













罠などかけられているはずもない校内で、なぜこの人はこんなにも器用にこけるのだろうか。

目の前で見事なまでのスライディングを披露してくれた彼に手を差し出すものは誰もいない。

周りを見渡しても、誰も彼に目をかける人はいなくて。


彼の人はいないようだった。


「大丈夫、ですか?」

そっと手を出して彼が起きるのを手伝おうとすれば、すごい速さでこちらを見上げた彼。

見開かれた瞳はを映した瞬間、大きな落胆を映して。

ふにゃり

笑っているのに泣きそうなそんな笑み、見たくなどないのに。

「ありがとうございます。」

そう言いながら差し出した手をそっと掴んで立ちあがる。

「いえ、怪我とかはありませんか?」

「うん大丈夫だよ。ありがとう。」

「ならよかったです。」

ふわり紫色の髪が目の前で舞う。

柔らかな瞳は時折誰かを探すようにさまよって。

「ありがとう、でも僕こう言うことはよくあるから。」

そう言って笑うのに。

「っ、ど、」

どうして、瞳は笑わない。


思わず口に出しそうになった言葉。

きょとんとした表情。

「僕は三年の三反田数馬。よろしくね。」

「三年のです。」

「あ、転校生の子だ。」

へにゃり、さっきとは違うちゃんとした笑み。

それにほっとした。

「はい、よくご存じですね。」

「ふふ、噂になってたからね。」

「噂?」

「うん。小さくて一年生みたいな女の子って。」

「・・・」

なんとも不名誉な噂だ。

背が小さいのは仕方がないことだというのに。

「あ!可愛いってことだからね!」

慌てて言い直す姿がまたなんだか可愛らしい人だ。

「・・・誰か探してるんですか?」

先ほどから幾度となく辺りを見渡す瞳。

それを問えばきょとりとした顔。

「探してる・・・?僕が?」

「さっきからずっときょろきょろしてるから・・・」

自分で実感がないのだろう、本当に不思議そうで。

でもようやっと納得できたみたいな表情をして。

「そっか、僕探してるんだね」

「え?」

「僕がさっきみたいにこけてたりしたらね、助けに来てくれるような、そんな人がいた気がしたんだけどね」

あのね、そう言って話してくれたことに、泣きそうになった。


みんな、心のどこかで感じてるんだ。


誰かが足りないことを。

何かが足りないことを。


「でも、誰を探してるかわかんないのに、見つかるはずないよね」

あきらめたみたいに言わないで


「三反田君。大丈夫だよ、きっとその人はすぐそばにいるよ。」



「だから探し続けて。」




それが今の私に言える精一杯



















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