ドリーム小説
記憶を辿って25 変わらぬあなた
ざくりざくり
不思議な音が聞こえたからと言って近づいた自分を今ものすごく後悔している。
掃除が終わり、ゴミ捨て当番としての仕事を終わらせるため焼却炉に向かう最中。
不思議な音が聞こえてきてふらふらとその発信地に足を向けた。
そこにあったのは幾つもの不自然な穴とふわふわとして銀色がかった髪を持った一人の男子生徒。
彼はシャベルを持ちその細い腕でざくりざくりと穴を掘っていた。
その不自然な光景に、思わず魅入られて、そうして微かに見えたその横顔にぞくりとした。
女の子顔負けの美しい彼はふわりその髪をなびかせながらに目を向けた。
向けられた目に、その瞳の無表情さに、まるで呼吸が止まったような錯覚に陥った。
「くのいちだ」
微かに本当に微かに口がそう動いた。
びくり、
こちらも微かに体を震わせただけだというのに、
彼はその大きな瞳を少しだけ見開いて、穴から全身を現した。
ふわりふわり
あの頃までの長さはないがそれでも風に遊ばれる髪はあの頃の面影を残していて。
汚れた制服のネクタイの色は紫。
ことり傾げられた首
瞳に映った自分。
「名前」
不意に発せられた言葉。
それは過去数回ではあるが聞いたおと。
それにこたえることもできずにいるとずずい、と距離を詰められて。
「名前なに?」
射抜くような強さを秘めたその目はまっすぐにに侵入してくる。
「、。」
気づいたら口にしていた自分の名前。
「、」
それを幾度となく反復する彼。
まるで自分の口になじませるかのように。
「私は喜八郎。よろしく、」
無表情のまま手を差し出されて、強制的に握手されて。
それが、と喜八郎の出会いであった。
「」
「ちょ、喜八郎先輩、おも、い・・・」
「滝は私に構ってくれない。だからがかまって。」
ぎゅうぎゅうと後ろから抱きついてくる彼。
高等部と中等部。
学年どころか校舎が違うのに。
彼はふらりとやってきてはに抱きつく、
それは縋りつくにも似て。
むやみにその腕を振り払えずにいつもはそれを受け入れてしまう。
でも、
その声が語るのは彼の先輩。
その言葉が求めるのはあの先輩。
はやくはやく。
あの先輩に思い出してもらわなくては。
そうしなくては、この人は近いうちに壊れてしまう。
そう思ってしまうのだ。
早く思い出してください。
この人の世話ができるのはあなたたちだけです。
平滝夜叉丸先輩
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