ドリーム小説







記憶を辿って27  色濃く残る
















「いらっしゃいま、せ・・・」

入店を告げるベルがなる。

お盆をさげながら入口に振り向き、お決まりの文句を口にする。



そして、の呼吸が止まった。



振り向いた先、さらり、肩下まである黒髪を手のひらで流す姿。

その髪は女の子からの嫉妬をあおるであろう。

けれどもそれだけでなく、その容姿は視線を集めるもので。

制服はの通う学校の高等部もの。

その切れ目の瞳は涼しげで、冷やかで



きょろり、店内を見回して誰かを探すように。

そうしてに目を止める。


どくん


胸が大きく音を立てた。

その鋭い視線に呼吸をすべて持っていかれる感覚に陥る。

眇められた瞳は一心にを映しだして。


「・・・お前__」


「あ!仙蔵!」


開かれかけた口は、そんな言葉によって遮られた。

「頑張ってるな、小平太。」

ふい、と交わらなくなった視線。

止まっていた呼吸を、そっと再開して。



そうして、じくじくと痛みを醸し出した胸を強くつかんだ。








は知っていた。

この男を。

過去、記憶の中で学園中の注目を集める男であった。

くのたまたちの中にも彼にひそかな恋心を寄せるものがいたり、

その美しさの秘訣を知りたがるものがいたり、

さまざまな意味で好かれる男であった。



ただ、にとっては彼はそれだけの男ではなくて



かつて、の色の初めての相手であったから。



至近距離で見たことのある瞳が、いま再びを映し

その甘く囁くような声は、耳の奥にジワリ沁みる。

は彼のことを恋慕うことはなかったけれど、やはり意識はしてしまうもので。


いくら時がたとうとも、記憶は色濃く


!私の友人の仙蔵だ!」



小平太に名を呼ばれ、振り向いた先、

射抜くような視線。

試すような表情は、一瞬でなりを潜めて。


、といったか?小平太が迷惑をかけているだろう。すまないな。悪気はないんだ許してやってくれ。」


強まる鼓動

不規則になる呼吸。


言ってしまえば楽になる?


けれども、それを言い出す勇気はなくて


「だ、いじょうぶ、です」



口からこぼれた無難な言葉。


「そうか、ならよかった。」




外れた視線にじわり、しみだす滴を見ないふりして息を吐いた。




仙蔵の視線を受けてまっすぐに笑顔で返す小平太に




あなたにも、心許せる人がいたことに




少しだけ、ほっとした





あの闇色の瞳は悲しすぎて。

















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