ドリーム小説








記憶を辿って30  駄目だ駄目だと心を閉ざす


















何をしてるのかと思った。


三組の出入り口で、二人、記憶に残る姿。

確かこの二人は同じクラスではあったけれど、いま現在交流はなかった気がする。

藤内が出て行こうとしたところを、数馬が止めたみたいで。


もう、記憶に残る彼らとはかかわらないと決めていたはずなのに。



少し、気になった。



彼らから死角になるところで壁に背をつけて、会話を聞く。



「僕のことは数馬って呼んでほしいな。」



その言葉に、驚きよりも緊張が走って



あの馬鹿。


くぐもった声を、その瞳を隠すように腕を数馬の顔に回す。

驚いたような顔を見せたのは藤内で。

そのまっすぐなまなざしはあの頃と変わることなく。


変わったのは僕を見るその瞳だけ。


数馬を連れてその場所から離れて

そしてその顔を覗き込む。

ほろりほろり流れる滴。


「何泣いてるのか知らないが、あんな風にいきなり泣いたら浦風が泣かせたみたいにみえたぞ。」


嘘だ。

本当は少しだけ思い辺りがある。

だけど、それはそんなことないんだ。


「三反田?」

「数馬って呼んでよ孫兵。」



驚いた。

それは、まるで、あのときみたいに


「数馬」


そう呼べばふわりあったかく笑った。



感じたのは、確かに、嬉しいという感情。


でも、同時に、駄目だと警告する声。



思い出さないで、


思い出しちゃ駄目だ。



あんなつらい思いを、あんなひどい気持ちを、思い出す必要なんかない。


自らの大事な友人に手をかけたあの時の気持など

この手を赤く紅に染めた、あの日のことを


思い出す必要なんかない。



真っ白いままの、君でいいから



僕を知らないままの君でいいから。



思い出さないで、あんな時のことなんか





頼むから





お願いだから。














誰も思い出させないで



















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