ドリーム小説
記憶を辿って38 他の何が許そうと俺が絶対許さない
「この問い、わかったか?」
「ん?」
綺麗な顔が、俺を覗き込む。
長い睫毛が、大きな瞳がぱちくりと瞬く。
その白い肌は、君によく似合っていて。
「なあ、勘右衛門」
兵助は俺のことを勘右衛門とよぶ。
決して以前のようには呼ばない。
「これはね、兵助」
幼馴染
それは以前よりも近いようで、でも遠い。
だって、あの頃が近すぎたんだ。
あの頃は全身でみんなを愛してた。
限りある時を、短な生を、心に刻みつけるように
全力で生きていたんだ
今とは違って
それでも、俺は構わない。
だって、いまこの世界は平和で、自由で。
あの時望んだ全てのものが、たった一つ以外のものが、ここにあった。
この手を赤く染める必要はない
この溢れるような感情を抑える必要もない
大事な、大好きな皆に、刃を向ける必要もない
それはとても、とても素敵な世界
たったひとつ
君たちが何も覚えていないこと以外は
記憶の中で大事な友として、仲間として存在している君たちは
この世界で、悲しいくらいに距離があった。
さみしくは思う
けれども、実は安心していたりもする。
だって、ね。
この悲しみの記憶を持たずに済んでいるのだから
だから、僕自身思い出してほしいとは思わない
まあ、あのときみたいになれればいいとは思ってるけれど、今現在俺の感情以外の不都合はないわけで。
兵助は傍にいるから、八たちも一緒の学校だから、いいかな、って、そう思ってたのに。
思っていたけれど
あ ん な 壊 れ そ う な 三 郎 見 た く な い
入学式のとき、雷蔵を見つけてその名を呼んで。
その表情に、あの頃まねていた雷蔵とそっくりの顔に、三郎だ、と思った。
覚えているというその事実に、歓気が生まれた。
俺の記憶が事実であったということに
けれども、それと同時に絶望が舞って。
ああ、雷蔵。
忘れてしまったんだね。
君は君の半身を。
君の命のように大事だった彼を
君を命のように大事にしていた彼を
ねえ、それでいいの?
雷蔵
どうしてだろうね、見えるよ、君の姿が
ごめん、ごめん三郎
そう言って泣いている君が見えるよ
「勘右衛門?」
突然黙り込んだ俺に心配げに声をかけた兵助。
「ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてただけだよ。」
ねえ、誰が、こんな采配をしたの?
あの二人を引き離すなんてね
そんなの、俺は許さないよ。
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