ドリーム小説




記憶を辿って49    彼のために











「・・・喜八郎先輩。」

最近は本当に彼の定位置のようだ、の背後は。


ずるりずるり

あの藤内の一件以来より一層、喜八郎はに縋りつく。

ぽっかり空いた穴を必死で埋めるみたいに。


でも、それはで埋められるものではなくて。



喜八郎と同じ記憶を持っていても

同じ時を共有してはいないから。



「ねえ、・・・」


声にせず、空気が漏れる。

それは、助けてと発しているようで。



どうしようもない気持ちになる。



には助けられない。

にはこの肩を貸すことしかできない。



それは、どうしようもなくもどかしいことで。




ごめんなさい





どうしようもない気持ちを持ちながら、ずるりずるり喜八郎を引きずって向かうは高等部。


どうしても離れようとしてくれない喜八郎を教室に送るためにはこうして高等部に向かっているのだ。

高等部一年生のネクタイは紫色。

黄緑色のネクタイをしているはとても目立っていて。

それでなくとも、喜八郎が張り付いているせいでに注目は集まっているのだが。


「先輩、教室どこですか・・・」


息を切らしながら声を発するに喜八郎は答えることなく、の足を止めるようにさらに縋りつく。


「ちょ、喜八郎先輩っ!?」

それによって今までぎりぎりで何とか持ちこたえていただったが思い切り体制を崩して。


「っ、」

「大丈夫か?」

ぽすりという乾いた音と共に柔らかな感触。

それはそっとに添えられていて。

目の前のネクタイは紫。

それは彼らの色。

喜八郎と同じ色。


「中等部の生徒か?どうしたんだ?」


そっと支えられて立った目の前。


黙っていれば綺麗なのに


くのいちの中でよくそう評価されていた人物がそこにいた。


特徴的な眉はそっとひそめられていて。

自分で言うだけのことがあるほど秀麗な顔立ち。

それは確かに異性にもてるであろう顔で。

「いや、それよりも・・・なにをしているのだ。綾部。」

ため息をつくように吐き出された言葉はの後ろに向けられていて。

びくり、微かに、本当に微かに触れているにしかわからない程度に喜八郎が揺れた。

ぎゅう、と強かった腕から力が抜けて行く。




それは、まるであきらめるみたいに


「何もしてないよ、・・・平。」


そっと離れて行く温もり。

ごめん、と告げるように一度だけの髪をなでて。


「すまなかったな、私の友人が。」


友人


その言葉の何と軽いことか。


では、そう言って去っていくその腕を

はしり


思わず、掴んだ。


「?なんだ?」


首をかしげ、の背に会わせるように微かにかがむ彼。


後ろでどうしようもなさそうにたたずんでいる喜八郎を無視して。


体が 動いた。



「!なにをする!?」



しゅるり


彼らの学年を象徴するそのネクタイを思わずつかんで、引っ張った。

いとも簡単にほどけたそれを、取り戻そうとする滝夜叉丸から距離をとって。


「一つ年は下ですが、今のあなたに私を捕まえられはしません。」


驚きの表情を見せる。

それは滝夜叉丸だけでなくて、その後ろの喜八郎もで。


「取り返したかったら、私を捕まえてみてください。平滝夜叉丸先輩」


まっすぐに、その目を見つめて。

それだけ言うと、あっけにとられている滝夜叉丸をそのままに体を動かす。



思い出してもらいます。


喜八郎のためにも。



















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