ドリーム小説
記憶を辿って51 覚悟して
ずるずるずる
私を引きづって歩く。
その小さな体ではなかなかきついことだと知ってはいるけれど、それでも彼女はため息をつきながらも私を連れて行ってくれる。
けれども、いま、私は皆に会いたくはなくて。
クラスメイトになってから、滝はよく話してくれるようになった。
一人でいることが多い私がクラスになじむことができるようにと。
それはまるであの時のようで
あの時、始めて会った時のようで
錯覚、する
苦しい。
「ねえ、・・・」
たすけて
そんな言葉を吐きそうになった自分に自嘲する。
同じ時を過ごした記憶はあっても
同じ時間を共有したことはなかったから
「先輩、教室どこですか・・・」
まだ、教室に帰りたくないのに
そんな思考からぎゅう、との体を抱きこめば、とうとうは体勢を崩して。
「!わ!」
声をあげてぐらりと傾いた体を慌てて体勢を直そうにもうまくいかなくて。
ふわり近づく、見知った気配
「っ、」
「大丈夫か?」
ぽすり
を通して伝わってきた微かな衝撃。
上手に勢いを緩和して、そっと添えられた手。
柔らかな感触と共に、かけられた声はあったかいもので
「中等部の生徒か?どうしたんだ?」
まるで私が見えてないみたいに、ただに声をかけて。
支えるようにを立たせて、そしてようやっと私に気がつく。
「いや、それよりも・・・なにをしているのだ。綾部。」
眉をひそめるように、まるでこいつは、そう言ってため息と同時に吐き出された言葉。
滝のそう言うため息は嫌い
思わずこわばった体、もしかしたらに気づかれたかもしれない。
まあ、いいか。
「何もしてないよ、・・・平。」
タイムリミット
縋っていた手から離れる。
その柔らかな黒髪をそっと撫でて。
ごめんね
そんな気持ちでゆっくりと手を話す。
「すまなかったな、私の友人が。」
ぎゅう、って胸が痛くなった。
ねえ、滝。
滝は私のこと、本当に友人だと思ってくれてるの?
だって、ねえ
滝は私に近づくのをどこか恐れてるじゃない
でも、そんなこと言えなくて
はしり
滝の腕が、の手に掴まれる。
「?なんだ?」
そのまま去っていくと思ったが、滝を引き留めたことに、少し驚いた。
でも、その次の行動にもっと驚いた。
しゅるり
音を立てて外された滝の紫ネクタイ。
簡単にほどけたそれを、滝が取り戻そうとするけれどは鮮やかな動きでそれを避けて。
「一つ年は下ですが、今のあなたに私を捕まえられはしません。」
まっすぐ、あの出会った時と同じ強い瞳。
それは迷いをふっ切ったようで。
「取り返したかったら、私を捕まえてみてください。平滝夜叉丸先輩」
ふわり
その笑みは羽のように軽く
それはまるでくのいちのように
艶やかで
滝に近づく。
その茫然とした滝の後ろをとって、人間の急所に手をあてる。
触られるまで何の反応も見せなかった滝。
「ねえ、」
ねえ、あの時ならばもう滝は死んでいたんだよ?
「私も待っているだけはやめる。」
さらり、空いていた窓から流れ込んだ風が、髪を揺らす。
「覚悟しててね、滝。」
そうだよね、まってるだけなんて、私には似合わない。
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