ドリーム小説
記憶を辿って53 たとえ偶然だとしても
「あれ?」
食堂に向かっていたはずなのに、なぜか周りには緑色。
まごうことなく中庭とよばれる場所に僕はいた。
前も後ろも右も左も、緑色。
風がそよりとそよいで、温かな日差しが差し込んで。
それはとても気持ちのいい空間ではあったけれど。
がさり、音が鳴る。
さっと、姿勢を低くして構えれば現れた女子生徒。
ネクタイは黄緑。
僕と同じ学年。
「あれ?神崎君だ。」
つぶやかれたのは僕の名前。
紡いだのは、記憶の隅っこにではあるが微かに存在している少女。
「あ、だ!」
不思議そうにことりと首をかしげて僕を見る。
そういえば、先ほど放送で呼び出されていた名前がのものであったような気がする。
「お昼は?」
聞かれて思い出す。
食堂に向かっていたということは、まだお昼を食べてはいない。
それを改めて思った瞬間、欲望に忠実に音を鳴らす僕の腹。
「よかったら、食べて?」
がさりがさり、音と共に出されたのは菓子パン。
「食べようと思ってたんだけど、呼びだされたし、たぶん食べれないから。」
そう言って渡されたクリームパンが、僕の手の上で、僕を誘惑する。
「ありがとな!もらうぞ!」
食べれるときに食べなければ、そういう考えだけではないけれど、人の好意を断る気もなくて。
にこにこと美味しそうなそれに嬉しくなる。
「んじゃあ、私行くね?」
ひらり、手を振ってそのまま去るかと思われたが、一歩進んだ後くるり、振り向いた。
「そこの木を通り抜けたところ、すごくお日様があったかいよ。」
ただ、それだけ。
方向音痴な僕ではあるけれど、さすがに太陽を見間違うことなどしない。
の言葉に促されるまま向かったその方向。
そして見つけた、懐かしい仲間。
はしりと瞳を瞬かせて呼んだのは俺の名前。
その温かい声色にどうしようもなく感情が決壊して。
ぼろぼろぼろぼろ
馬鹿みたいにこぼれてくる涙を止めようにも止められなくて。
それを三之助が苦笑してみていたのもわかってたけど。
ただの偶然かも知れない。
何も思ってなかったのかもしれない
それでも、
ありがとう、。
君が私を助けてくれた。
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