ドリーム小説




記憶を辿って54    ささやく












話したいことがあって、言いたいことがあって。

だから探した。

でも、なぜか彼女はどこにもいなくて。

教室にはいない、ならばとほかのところを探して。



ようやっと見つけた彼女は、こちらの気など知らないようにすやりすやりと木陰で眠っていて。



気配を消して、その横にそっと座り込む。

こんなにも気配に鈍くてもいいのだろうかと思いはするけれど、まあいいか。

こんなにも近くにいるのに、起きる様子を見せない彼女。

そっとその髪をなでる。

「ん・・・」

微かに身じろぎはしても、やはり起きる気配はなくて。



さらり
さらり


その流れる黒髪を手で操り遊ぶ。

手触りのよいそれは、手になじむ。

繰り返し繰り返し撫でる。


座り込んだままそっと顔を耳に近づけて。

ふわり、香る柔らかなにおい。

とくんとなった胸。

「・・・?なんだこれ。」

始めて感じた違和感に、少しだけ躊躇して。

でも、次の瞬間にはもう消えていたそれ。


近づいて、耳元に唇を近づけて。



囁く



「思い出した。」

ただ、事実を述べるその行為。

彼女が起きていないのはわかるのに。

ぎゅう、と心臓が緊張する。

閉じた瞳、長い睫毛。

白い肌は微かに紅く上気して、薄桃色の唇が甘く誘う。



「ありがと、な、


さらり、髪が揺れて、にかかる。

こつり、誘う唇からそっと目をそらして額をぶつける。

「もう少しだけ待ってて。」


今まで日が当っていたのが影になったからだろう。

微かに身じろぎする。

まるで猫みたいに身を丸める


「・・・可愛い」


その髪をもう一度なでて、そっとその横に寝転がってみた。

温かな日差しに、ゆっくりとまぶたが下がっていく。




本当は今すぐに、思い出したと抱きつきたい。

本当は今すぐに、作に久しぶりって言いたい。



でも、それをするにはまだ勇気がなくて。

だから、もう少しだけ待っていて。
















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