ドリーム小説
記憶を辿って56 その名前の意味するものは
『数馬、だよ、』
『僕のことは数馬って呼んでほしいな。』
それは以前にもどこかで___
「何してんだ?浦風。」
ばちり
どこか遠くへ飛んでいた意識が戻る。
呼ばれたほうへ目を向ければきょとりと不思議そうな瞳をもった友人。
それは先ほど見ていた瞳と似ているようで、別物で。
放課後、友人と共に明日のテスト勉強をするべく寄ったファーストフード店。
目の前にした問題集を無心で説いていた、はずなのに。
窓の外、不意に向けた視線の先に映ったのはべしゃりと地面に顔を激突させて盛大にこける紫髪。
ふわり、綺麗に波打ったそれは重力に従って落ちる。
しばしそのままの姿勢。
周りにあまり人がいなかったのが幸いなのか、不運なのか、ゆっくりと起き上がった彼はふにゃりと眉を泣きそうに歪めながら、
笑っていた。
『数馬、だよ、』
それはまだ記憶に新しい出来事。
『僕のことは数馬って呼んでほしいな。』
それは唐突に放たれた言葉。
だがそれ以降彼と接触することは少なくて、あれ以来いまだにその名を呼ぶことはなかった。
かずま
何度も呼んだ覚えがあるような、口になじむその名前。
口に出してしまえば、この胸の突っかかりが取れてしまえそうなそれは、
未だに言葉にするのが怖くて。
「ううん。何でもない。あ、それよりこの問題わかんないんだけど___」
見ていたそれから無理矢理目を外して、意識をそれから離して。
しらないしらない
心に引っかかる何か。
そんなものは知らないと目をそらして
「ああ、それはな___」
その名前はどんな意味があるのかな
そんな考えも遠くへと追いやった。
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