ドリーム小説





記憶を辿って60   ずっと耐えていたのでしょう













「同じ学校の中等部だよな?」

営業時間が終わり帰り支度をしていれば話しかけてきた小平太

「はい、ええと出会ったことありましたっけ?」

同じ敷地内にはあるが、中等部、高等部では使う校舎が違う。

よって、そんなに頻繁に会うことはないのだ。

店ではもちろん会うけれど、それでもお互いの学校のことは触れたことがなかった。

それはにとっても、怖いことで

きっと小平太にとっても、怖いもので


「三年で有名な迷子と一緒に迷ってるのを見たことがあってな。」

三年で有名

その言葉に小平太の顔を見上げる。

以前は学校中に知られていた彼らの迷子。

だが、いまは違う。

学校自体に膨大な人数がいるというのにそんなうわさが高等部まで回るはずがない。

ましてや、迷子たちのことは三年の中でも知らない人たちがいるというのに。



もしかしたら




浮かんだ予感


そして、仙蔵に言われた言葉。



『もう一人いるぞ』




「七松小平太先輩。」


ぴたり

が名前を呼んだことで帰り支度をしていた小平太が、止まる。

そうしてゆっくりとの顔を見る。

ゆっくりと距離を詰めてくる小平太。

その顔には、笑み。


どうして知ってんの?」


追い込まれた壁際。

目の前には獰猛な肉食獣。

自分は捕えられる側だと思わずにはいられないその威圧感。

笑みだというのにそれは恐ろしく。

瞳は笑みの形など見せない。


「私はに名前しか教えてないよね?」

確かに、彼は自分の名前しか告げていない。

こじんまりとしたバイト先だから、ネームをつけているわけでもない。


ことり

傾げられる首は可愛い動作のはずなのに。

今の彼がそれをすることに恐ろしさしか感じない。


「ねえ、どうして?」


自分から仕掛けたことだというのに、恐怖が体を支配する。

逃げようと体をよじろうとしても、両側に置かれた腕がそれを許さない。

それどころかより一層距離を詰めるように追い込まれる。



「あ、」


それは音になることなどなく、意味のない言葉として地面に落ちる。



「覚えているの?」


その言葉は明らかなまでの肯定。

ふるり揺れた瞳を彼が見逃すはずなどなく。

彼の大きな瞳が柔らかく滲んで。

ぎゅうと大きな胸に引き寄せられた。





やっと見つけた。

ぐっと込められる力は、思いの強さ。

痛みと同時に胸の中に広がるのは悦び。

ここにもいた

あの過去の記憶を所有している人が。


抱きしめられていた腕を解いて、その瞳を見上げる。


「卒業してからの武勇聞き及んでおりました。」


大きく見開かれた瞳は次いで眩しげに細められて。


「再びこのように出会えたこと、嬉しく思っています。」


ゆっくりと一礼することで視線を外す。





「私も、再び出会えて、嬉しいよ。」



ほとりほとり

地面に鮮やかに色がつく。

それはのものではなくて。

地面に落ちた涙からそっと目をそらした。















back/ next
戻る