ドリーム小説





記憶を辿って61   エゴだと知ってはいるけれど












「七松先輩。」

「小平太。」


「・・・小平太先輩。」

「なんだ?」


まるで大型犬がしっぽを振っているようだ。

にこにこ笑う小平太を前にはそんなこと思っていた。



バイトが終わりいつもであればそれでは、と手を振り去っていくはずなのに

気がつけばあれよあれよという間にはファーストフード店に連れ込まれていた。

どうやらは小平太のことを知っているが、小平太の方はのことをあまり覚えていないようで。

それでも、記憶を有する者に会えたのが嬉しいのだろう。

その笑みはふわふわと彼の顔に浮かんでいた。


「小平太先輩。」


三度名を呼べば満面の笑みだったその表情が、微かに陰る。

へちょり、今度は耳がたれているようで。


「誰も、仙蔵以外私をその名で呼んではくれない。」


ぽとり落とされた言葉は彼の孤独を物語っていて。


「じゃあ、思い出してもらいましょう。」


その言葉は何ら大きな意味を持たぬかのようにぽろりと零れた。


「・・・え?」


きょとり

そんな可愛い表現が似合う年齢じゃないはずなのに、それは小平太によく似合っていて。


「だって、覚えていてくれないなんてひどいじゃないですか。」


のことは覚えていなくてもいい。

もとより交流が深かったわけじゃないから。


ぱちりぱちり瞬く瞳はを映していて。


「だから、思い出してもらいましょうよ。」

小平太の瞳がすっと、細くなる。

「酷だと、思わないの?」

「思い出させることがですか?」


まっすぐとを見ていたはずの瞳はすっと外されて。


「だって、私たちは___」


その言葉の先は、私たちの重い罪


「今はもう、あのころとは違うんです。」

小平太の言葉を遮るように。


「私たちはいまを生きてます。」


 過去の記憶に縋っていようとも

それに___


「私たちだけが覚えていて、皆が覚えていないなんて、ずるいじゃないですか。」





その言葉に、小平太は再び笑んだ。



「そうだよな。もんじたちのくせに生意気だ!」






あなたたちは共にあるべきなのです






















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