ドリーム小説
記憶を辿って62 君を信じてみようか
私たちにとってくのたまとは恐怖の対象だった。
さすがに上級生になればそんな感情ばかりではなくなったし、くのたまが忍たまに手を出す理由も理解できていた。
それでも幼い時に根付いたそれはなかなか消えることのないもので。
だからこそくのいち教室の子たちと大きな接点を持っているものは少なかった。
そう言う私もその一人で、委員会などで共に行動する子や授業で一緒になった子以外は知らない子ばかりだった。
特に下級生なんて記憶に残っていない。
そしてこの子もその一人だ。
目の前で私の視線から逃げるようにあとずさる。
それを壁に追い込むことで止めて。
ふらりふらりさまよう視線を声でこちらに向かせて。
見たことある気がするな、と思ってはいたけれど、それが過去の記憶だなんて思っていなかったから。
「七松小平太先輩」
私の名がこの子の唇からこぼれ出た瞬間、背中がぞくりと泡立った。
それは歓喜のようで恐怖のようで
その鋭い視線はまさにくのいち。
自分から仕掛けたくせに、私が近づけばどうしようという表情。
それがおもしろくて可愛くて
思わず本気になりそうになった。
仙蔵だけが共有していたこの記憶
仙蔵だけに縋っていたこの私。
ふわり笑って彼女が私にくれたのは新たな泣き場所であった。
「思い出させましょう」
ぽろり
何でもないことのように彼女は言った。
人殺しの記憶も、
すれ違った道も、
そんなこと大した理由でもないというかのように。
それは衝撃。
動くことができないままの私の背中を押したもの
彼女のそのまっすぐな瞳に、私を疑うことのないその言葉に
信じてみよと思った。
だって、やっぱり私ももう一度彼らと笑いあいたい
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