ドリーム小説





記憶を辿って67   不運だけど、不幸じゃないから













普通に歩いていたはずなのに、気がつけば私は地面と熱烈な抱擁を交わしていた。


「・・・くっ、大丈夫?乱太郎っ、?」

横から心配そうな声、基笑いをかみ殺しきれてない声が投げられる。

むくりと何も言わずに起き上がった私に、隣の兵ちゃんは手を出してきてくれて。

「・・・ありがとう」

その手を取って立ち上がる。

兵ちゃんの方を見れば瞳に涙を添えて笑っていて。

「本当に乱太郎はよくこけたりするね。」

昔からずっと、慣れてはいるけれどこの体質はどうにかならないものなのか。

「猪名寺、またこけてやんの!」

廊下の真っただ中だったからだろう。

けたけたと耳に響く声で私を見ていたクラスメイトが声をかけて行く。

慣れているそれらに笑って答えたけれど、たったひとつだけ、胸に刺さる言葉。

「貧乏神でもついてんじゃねえの?」

「不幸な体質だな!」

おそらく何の気なしに放たれた言葉だろう。

口は悪くても、クラスメイトは皆優しいから。


それでも、その言葉はいただけない。

「・・・違うよ。」

去っていくクラスメイト達の背中を見ていれば、ぽつり横から聞こえたつぶやき。

「・・・兵太夫?」

思わず聞き返せば、その鋭い切れ目が私を射抜く。

「違うだろう?乱太郎。」

次に発せられる言葉が想像できなくて、返事ができない。

「乱太郎は不幸じゃなくて、不運だろ。」


ぎゅう、と胸が握りつぶされるみたいに感情がジワリ、広がる。

言葉にならない私にその瞳の鋭さがふっと和らぐ。

「ね、しんべエ。」


次いで落とされた言葉は、記憶を強く揺さぶるものだった。





「うん。そうだよね、兵太夫、乱太郎。」




振り向いたそこ、溢れる記憶


埋まる失われていたピース



ふんわり

まるで砂糖菓子のように。


ふっくらとしたその体はあの時と変わらず、瞳も、あの頃の汚れなど知らぬように。




「しん、べエ・・・?」


確かめるように、かみしめるように、もらした名前。

その持ち主はさらに幸せそうに笑って。



「久しぶりだねえ、乱太郎、それから兵太夫も。」



展開に頭がついていかない。

兵太夫がしんべエに飛びついて、その柔らかな頬をふにふにと触っているのが見えるのに、まるで夢の中にいる心地で。


「あのね、乱太郎。」


ぼおっとした頭でその言葉の先を待つ。


「僕、いまのいままで、兵太夫の言葉を聞くまでなあんにも覚えてなかったんだ。」

にっこり、あったかい笑みがようやく私の心にじんわり響く。

「僕もそうだよ。あいつらの言葉聞いて、乱太郎は不運だけど、不幸じゃないって。そう思ったら思い出した。」

びっくりしたねえ。

したよね。

笑いながらそう言いあう二人の姿にどうしようもなくうれしい気持ちがこみ上げる。


「わ、乱太郎?」

「ちょ、いたいから。」


思い切り飛びついて、ぎゅう、と力を入れて抱きしめる。

この記憶が嘘のものではないということと、

この記憶を肯定してくれる友ができたことに


溢れる感情を制御するすべがわからなかったから。


「久しぶり!」





不幸なはずがない!


だって、こうやって再び会えたんだから!



















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