ドリーム小説
記憶を辿って69 偽りの自分
僕、笹山兵太夫は自分で言うものなんだが容姿が整っている。
きれい
かわいい
かっこいい
それらの言葉は小さなころから同級生はおろか年上のお姉さんにとどまらず、学校の先生から近所のおばさんまで幅広く言われ慣れてきた。
いまさらその言葉を言われたところでなんの感情もわかない。
またか、と思うだけ。
それでも、人当たりが良いふりを表面上に張り付けていれば大人からはいい子と言われるし、都合がいい。
だからこそ、今までずっとその仮面を張り続けてきた。
ふわり嬉しさを満面に押し出すように笑えば近所の人たちや母さんくらいの年頃の人たちがこぞって可愛いと僕を可愛がる。
ふにゃり眉をひそめて悲しげな表情を浮かべれば、先輩たちが大丈夫?と心配げに駆け寄ってきてくれる。
にやり勝気な笑みを浮かべて見せれば同級生の子たちがきゃーきゃーと僕をもてはやす。
もちろん男の子からちょっかい出されるのがなかったわけじゃない。
先ほども言った通り、僕の顔は整っているから望まなくても女の子たちが寄ってきたし、よく告白もされた。
けれど男の子たちを敵に回すのも面倒だから、ほどほどに彼らとの付き合いもして。
彼らの誰かが傷つけられたと聞けば、その仕返しに。
彼らが何か困ったことに陥れば知恵を貸して。
僕は毎日そうやって生きてきた。
全てを計算して、利用して。
本当の自分を見せればどうなるか理解していた。
子供らしくない頭脳を持って
可愛くない冷めた感情をもてあまして
そうやって生きてきた。
今まで、ずっと。
だから、さ。
君は僕にとってとても貴重な存在だったりするんだよ。
乱太郎。
中学に入ってからも、今までみたいに生活していくつもりだったのに。
入学式で入場する際にこけるなんて面白いことをしてくれた彼。
計算をしたところで結果はすべてはずれだなんて。
そんな面白い奴と一緒にいれば楽しいかも、と思って。
自分から初めて手を出してみた。
「始めまして」
そう言って差し出した手をきょとりと不思議そうにした君は、一時置いてふにゃり笑ったんだ。
その笑顔の前に、自分を偽ることがばからしくなって。
始めて僕は本当の意味で笑みを浮かべたんだ。
始めて僕は自然体で友達を見つけたんだ。
歩けばこける。
段差に躓く。
溝にはまる。
まさに不運。
それでも君は慣れたように笑っていて。
ずっと前からこうなんだ。
いつもそう言ってた。
その飾り気のない笑顔が僕にとってすごく眩しかったんだ。
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