ドリーム小説
記憶を辿って70 強い色
掃除当番だというのに帰ってこない乱太郎。
怒りの感情よりも先に、どこかでまた怪我してるんじゃないかという不安に駆られて、探した彼。
僕の心配をよそにむにゃむにゃと眠る乱太郎を見た時は、体中から力が抜けた。
というか、いらっとした。
だけどその横で乱太郎を不思議そうな表情で眺めている女子生徒に目が行って。
こてり、首をかしげて乱太郎を誰だったっけと思いだそうとするように。
その仕草がなんだか可愛く見えて、ネクタイの色から先輩だとわかっていたから彼女に声をかけた。
「猪名寺乱太郎、ですよ。先輩。」
びくり、体を震わせてこちらをみた彼女の視線の鋭さに一瞬息がとまった。
まるで警戒するように、猫が威嚇するように。
それがなんだか新鮮で無意識にほおがゆるむ。
きっとそれは乱太郎がよく言うあくどい笑みというものだろう。
「僕は笹山兵太夫です。先輩の名前をお聞きしても?」
そっと目を眇めて、まるで獲物を見つけた気分でその瞳をまっすぐと射抜く。
そうすれば女の子はよく目をそらして恥ずかしそうに目を伏せて名を発するのに、彼女は違った。
僕の瞳をまっすぐと見据えたままで、その名がその綺麗な唇からこぼれる。
その瞳をどこかで見たことがあったようなそんな感覚に陥る。
もっと近くでみたい。
そんな衝動にかられて気がつけば彼女の顔を覗き込んでいた。
「ん〜、先輩、どこかでお会いしたことありませんか?」
ごまかすように零れた言葉
「笹山くっ、」
慌てたような言葉。
その唇をふさいでしまいたいような衝動にかられる。
「校内で堂々とナンパ?今年の一年はたちが悪いみたいだな。」
それは一瞬で消されてしまったけれど。
もう一人いたんだ。
彼女と乱太郎しか目に入ってなかったけれど、どうやら彼は同じように眠っていたようで。
むすりとした視線が僕に向けられる。
「あ〜あ、残念。せっかく可愛い先輩に会えたのに。」
ため息をつくように漏らせば、ぴしり空気が凍るような音。
目の前の先輩から発せられる怒気から逃げるように体を離す。
「・・・無粋なまねはよしてくださいよ、先輩。」
ぼそり、つぶやけばさらに鋭くなるその瞳。
それ以上ちょっかい出せば面倒なことになるのはわかっているのでくるり方向転換。
目的の人物をたたき起して踵を返す。
最後にも一つ爆弾を落とすのを忘れずに
「先輩、それではまた。」
彼の怒気が増したのは言うまでもない。
そんなことがあってから数日後。
あの鋭い視線が記憶から消えない。
あの強い瞳の意味が知りたい。
そんなことを思っていれば隣を歩いていた乱太郎の姿が消える。
面白いくらいに期待を裏切らない乱太郎は、相変わらずへにょりと笑う。
そんな時。
乱太郎に向けられた言葉に、世界が反転する感覚に陥った
※※※※※※※※
55話の数日後。そして67話のとき。
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