ドリーム小説
記憶を辿って72 その言葉は疑問でなく確証
「・・・どうして・・・?」
の眼に映ったのは、三人の一年生。
彼らが座り込みながら一人のほっぺたをぷにぷにと楽しげにつついている様子。
そしてそれを遠巻きに見つめる他の生徒たちの姿だった。
今日の授業も終わり、さて帰ろうかと靴箱に向かっている途中。
ふわり視界をかすめた水色に思わず立ち止まる。
何の気なしに向けた視線の先、そこにいた三つの影にどくんと心臓が音を立てた。
その戯れる様は幾度も遠目に見ていたもので、
その笑いあう様子はまるであの頃のように錯覚する。
「・・・どうして・・・?」
思わずほろりと漏らした言葉。
それが聞こえる距離ではなかったというのに、その中の一人がまっすぐとを見つめてきて。
その瞳の中に自分が移りこんだ瞬間、まるでとらわれるかのような錯覚に陥る。
数秒、見つめ合ったその瞳はやがてふわあり、まるで柔らかな春の日差しのようにまどろんで。
かと思えば、彼はふらり立ち上がり、軽やかな足取りでへと向かってくる。
その後ろでは立ち上がった彼にきょとりとした視線を向ける二対の瞳。
思わず一歩下がっただが、それよりもはやく彼は近づいてきていて。
「また会いましたね、先輩。」
にこり、柔らかな笑みのはずなのに、その瞳は鋭くて。
「僕のこと覚えてますよね?」
ふわりふわり首を傾げれば彼のぱっつりとそろえられた前髪が揺れる。
「笹山、くん。」
名を呼べばさらに笑みは深まる。
「やだなあ、名前で呼んでくださいよ。ね、先輩。・・・藤内先輩はお元気ですか?」
一瞬何を言われたのか理解ができなかった。
最後の一言が柔らかな波紋を伴っての脳に伝達されていく。
小さな声であったそれはしかし強い色を持ったままを浸食して。
「兵ちゃんどうしたの?」
「兵太夫?」
ひょこり
その言いようのない苦しい状態を緩和させてくれたのは二つの声。
ゆっくりと目をそちらに向ければ出会う無垢な瞳。
眼鏡をかけた彼はあ、と声をあげてふにゃり笑った。
「あの時の先輩ですね?こんにちは。」
凍っていた心を溶かす笑みに、そっと詰めていた息を吐く。
「・・・先輩・・・?」
もう一人はじいっとを見つめていたと思えば、ぽん、と何かを思い出したかのように手をたたいた。
「あ、思い出した!いつも遠くから僕等の子と眺めてましたよねえ?」
にこにこ
いいこと思い出した、とでもいうように軽く告げられた言葉に、再び混乱が訪れる。
「覚えてるでしょ?先輩。」
三つの笑みに囲まれて、答えを探すに落とされるは最後の爆弾。
思わず見つめた三つの瞳はどれもこれも温かな色を秘めていた。
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