ドリーム小説





記憶を辿って73   苦しくてつらかった












柔らかな三つの笑みに囲まれては中庭にいた。

あの後あまりにも強く集まる視線に耐えきれなくなったため急遽移動したのだ。


先輩覚えてるんですね!!」

嬉しそうにきらきらとした瞳で見られればそれに否定する気も起らなくて。

一度頷き返せばぱあ、とさらに嬉しそうに笑う彼、乱太郎。

その横ではにっこにこの笑顔でこちらを見ているしんべエ。

そして微かに口の端をあげて笑う兵太夫がいた。



「三人も、覚えてたの?」

突然の事態すぎて、いまいち追いつかない思考をなんとか正常に直そうと言葉を発する。


「いいえ」

「覚えてなんかいなかったですよ。」

「さっき思い出したんです。」


の言葉はあっさりと切られた。

肯定の返事が返ってくると思っていたのに、帰ってきたのは否定にも近い言葉。

さらには、思い出したという、まさかの言葉。


「私は、その人を見た瞬間、一人ずつ思い出したんです。」

乱太郎が言う。

「兵ちゃんを見た時、兵ちゃんのことを思い出しました。」

横にいる兵太夫にふにゃり笑う。

「けど、出会っていない人のことはまだ思い出せてないです。」

兵太夫から視線を外して、へちょりと眉を下げて乱太郎は告げた。

「僕はさっき。乱太郎が不幸って言われてるの聞いて、なんかいらっとしちゃったんだ。不幸じゃなくて、不運なだけだってね。」

「・・・兵ちゃん、それはそれで・・・」

兵太夫は遠慮なく言葉を述べる。

口をはさんだ乱太郎ににやり笑った。

「でも、そのおかげで思い出せたよ乱太郎。」

その表情には確かに喜びがあった

「僕もねえ、さっきだよ。」

しんべエがそのふくよかな表情を緩める。

「乱太郎の姿を見た瞬間に、あ、乱太郎だあって。」

もちろん兵太夫もね、そう付け加える彼らがあまりにも眩しく見えた。

先輩は?」

しんべエに問われたそれに、少しだけ躊躇して答える。

「・・・ずっと、知ってたよ。」

それにゆっくりと三人の眼がへと向けられる。

「ずっと、夢だと思ってた。」

そう、ただの夢だと。

自分の記憶が勝手に作りだしたものだと思っていた。

もしかしたら思い込もうとしてただけなのかもしれないが。


「ここに転校してきて、そして出会ったんだ。」


あの頃共にいること許されなかった彼らに。


「夢で何度も見たことがあった人たちに」


触れてみたくなったんだ。

あの頃恋焦がれていた光に。


「あれは夢じゃなくて記憶なんだって。」


見てみたかったんだ

もう一度彼らが共に走り回る姿を



「つらかった?」


「わ、兵ちゃん!?」

「わあ。」



ふわり

外の喧騒が一瞬消える。

そして体が温かい何かに包まれた。

それは予想もしていなかったことで。

なにが起こったのか理解できなかった。


「一人でずっとその感情抱えて。」


ぎゅう、と押し付けられた布から温もりが移る。

声が、耳元でくぐもって聞こえる。

優しく落ち着く音が、体に沁み渡る。


「もう一人じゃないよ。」


きり丸にも言われたその言葉。

でもじわりじわり体に広がる。



「先輩!今度からは僕にも話してください!」

「まだ思い出してないこといっぱいあるんです。」


「あの頃のみんなともう一度会いたいから。」



あったかい温もりに緩んだ涙腺はほとりほとりと音もなく決壊した。
















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