ドリーム小説





記憶を辿って75  夢見た瞬間












未だに彼らには会えぬまま。

ただ、日だけが過ぎていく。



  きり丸 

  きりちゃん




一番俺を理解してくれていた彼らは、まだ姿を見せてはくれなくて。


白昼夢のように、浮かぶ影。

思わず振り向く先には何もなくて。


ふわり

耳をかすめた音。

俺の名前を呼ぶように。


けれども、その持ち主は現れず。


ぐっと、呼吸が苦しくなる。


はやく彼らに会わなくては、呼吸すらできなくなって


いずれあまりの苦しさに死んでしまうのではないかと思うくらい

___そんなことで死ぬことなどないとわかっているのに。




苦しいそれに埋もれそうになるたび、そっと手を差し伸べてくれる金吾と団蔵。

いや、あいつらのことだから自分たちが俺を助けてるとか思ってないだろうけど。


二人に何度助けられただろうか。


闇の中、沈んだ思考。

「何してんの?きり丸。」

呼ばれた自分の名前。


真っ赤に染まる世界 遠ざかる背中。

『寝れないから電話してみた。』

夢から救い出すように。



迷い子の俺に差しのべられた手。

『私は皆に、思い出してほしいと思う。』

あなたの言葉で俺は動き出すことができた。


だから

まだ、俺は頑張れる


「きり丸、帰るぞ〜」

「ん、今行く。」

金吾と団蔵と、三人そろって帰宅しようと校舎を出た瞬間。




ちゃりん



今、この時を生きているうちに克服したはずのその音が、辺りに響く。


今日一日あの頃のことを考えていたせいだ。

思考は一気にそちらへと向き、

体はそれを求めて動き出し。


二人の止める声は、耳からすりぬけた。






「久しぶり、きりちゃん。」




音の源。

手にしたそれ。

ひんやりとしたそれに意識を奪われたのは一瞬。



かけられた言葉に、体中が歓喜で湧き上がるのを感じた。


ゆっくりと振り向いたそこではふにゃり眼鏡の奥の泣き出しそうな瞳。

笑っているのに、こらえるように。


俺の名前が呼ばれる。


ゆっくり差し出された手。

触れればきっと翅のように消えてしまうのだろう。

まだ、その幻想を味わっててくて、思わず後ずさる。


目の前の彼が苦笑する気配。


現実味のないそれに、思わずさまよわせた視線はぱちり、彼女とかちあって。



あの時泣いていたあなたはもういない。


ふわり、花開くようにこぼされた笑みが俺を勇気づける。

そっと開かれたその唇が、詩のように言葉を紡ぐ。


「きり丸君。大丈夫だよ。みんな思い出してる。」


ぱちん

まるで風船が破裂するように、その言葉は視界をクリアにさせた。

ゆっくりと振り向いた先。

まだ笑って手を出してくれている彼。


「きりちゃん」


再び呼ばれたそれに、どうしようもないくらい、思いが溢れて。

その手を掴まずには居られなかった。


つかんだ温もりに、ようやっと実感がわいてきて。


「きり丸!」

けれども、その喜びを噛みしめる前に、背中に衝撃。

ぐえ、と潰れた蛙のような声が出た。


ゆっくりと振り向けば

ふんわり笑う彼もいて。


「久しぶりだねえ。元気だった?」

ほえほえと笑うそれに、こわばっていた体の力が抜けた。


「きりちゃん、しんべエ、こうやってもう一度会えてうれしい。」

乱太郎の言葉がじんわりと胸に響く。

「僕は?」

ひょこり、不機嫌そうに言葉を積むいたのは兵太夫。

乱太郎としんべえにしか目がいってなかったみたいで、今初めてその姿を目に移した。


変わらぬ強い瞳は、今はむすりとひそめられていて。


「もちろんうれしいよ。」


乱太郎の柔らかな声は相も変わらず俺らを落ち着かせてくれる。

「兵ちゃん、それに団蔵も金吾もね。」

俺の後ろを見ながら放たれた言葉。

そういえば、さっきまで一緒にいたのにおいてきていたことを思い出す。

ふりむけば、肩で息をする二人組。


金吾はまた泣きそうになってる。

団蔵はわかってないだろうに楽しそうに笑って。



ほら、もう少しでみんなそろう。





















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