ドリーム小説
記憶を辿って76 はやくそのさきを
「あんまり男の人の前泣かないでくださいね、先輩。」
決壊した涙腺を止めるすべを見つけられず、自分より下の子に縋って涙を流していた。
そんなの耳に聞こえていたのは艶のある声だった。
耳のすぐ横。
囁かれ触れる吐息。
それは一瞬での涙を止めた。
「っ、」
とたん、恥ずかしさに襲われて慌てて離れた兵太夫の胸元。
その彼の顔にはにやりとした笑み。
「っわあ!?」
思わずもう一歩後ずさったの後ろからあがるは悲鳴。
慌てて振り向けば、そこにはがぶつかったことで全力で地面とこんにちはした乱太郎がいた。
そしてその拍子に彼のポケットに枝が引っ掛かりその中身が放り出される。
ちゃりん。
そんな軽い音を立てて、その中にはいっていたのだろう小銭がこぼれおちる。
それからのできごとは、あっという間だった。
「きり丸君。大丈夫だよ。みんな思い出してる。」
怒涛の出来事におびえる君。
震える迷子のような君にそっと囁けば、ようやっと乱太郎の手を取った。
その瞬間ふわり、広がった温かな気配。
ようやっと自分の居場所を見つけたように、幸せそうにきり丸は笑った。
ぽん
と軽く叩かれた頭、
驚いて振り向けば、穏やかな表情をした兵太夫。
から離れながら放たれた言葉はまるで子供だ。
けれども、そんな彼らの姿が温かかった。
ゆっくりと集まりだしたは組。
それはあの頃の団結力を余すことなく発揮する。
はやくはやく、彼らが再び共に笑いあう姿を見たいと思う。
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