ドリーム小説
記憶を辿って8 ほんのわずかな違和感で
「・・・ええ、と次屋、くん・・・」
「ん?」
「教室、何処でしょうか・・・」
忘れていた。
まったく、記憶からすっ飛んでいた。
そういえば、こいつ、次屋三之助は『無自覚の方向音痴』そんなあだ名がついていたような気がする。
先ほどの場所からであれば十分かからないうちに教室まで戻れたはずだというのに。
残念ながら、この景色はにとってまったくもって記憶にないものであった。
「もう少し先にある。」
自信満々に返された返事に小さな声でそうですか、と返すことしかできなくて。
引かれるまま導かれるまま足を止めることなく進む。
そろそろまじめにやばい。
昼休みが終わる。
うわあ、どうしよう。
そうは思えど迷いなく進むその足取りを止めることもできず。
がさり
なぜか草むらの中を歩いていたと三之助はとある小屋の前へと到着した。
「・・・誰。」
辿りついたそこ。
誰もいないと思っていたのにゆったりとした動作で振り向いた少年が一人。
三之助やと同じ黄緑色のネクタイ。
さらりと揺れる肩までの髪。
首元には赤いマフラーを巻いて。
そしてその彼には見覚えがあった。
それは「記憶」の中でもあり、同じクラスでもあるから。
「伊賀崎、くん・・・」
名前を呼べばちらりに目をやってそして三之助に視線を向けた。
「・・・逢引?」
「・・・!ちがっ!」
「迷子を教室まで連れて行くところ。」
突拍子もない事を言われたかと思えばそれを全く無視して返事する三之助。
無駄に息のあった掛け合いに何ともいえぬ気持ちになる。
「・・・迷子、ね。」
じとり、そう呼べそうな目で三之助を見た孫兵ははあ、と大きなため息。
「なんだ?」
それに首をかしげた三之助。
「その子、僕と同じ教室だから、僕が連れて行くよ。」
そういって差し出された手。
「そうか?じゃあ、よろしく。」
それに何のためらいもなくあっさりと三之助は手を離して。
じゃあな、その言葉を残して三之助は再びどこかに姿を消した。
「。」
「え、あ、はい・・・」
その後ろ姿を見送って、三之助は今日中に教室に戻れるのかとぼおっと考えていれば呼ばれた名前。
見れば孫兵が少し先に行っていて。
「いくよ。」
言葉と共に進みだした彼はすたすたとを置いていく。
「あ、え、ちょ、」
慌ててその背を追いかけて、追いつく。
目の前、赤いマフラー。
記憶によぎる赤い彼女。
とくん
胸が悲しげな音を立てる。
「あいつ、」
「え?」
「あいつ、次屋三之助は無自覚方向音痴だから。むやみに付いていかない方がいいよ。」
どくん
さっき、二人は初めて会ったようであった。
なのに、なんで孫兵は三之助のことを知っていた?
三之助が方向音痴だと知っていた?
どくん
ゆっくりとその端正な横顔を見上げるが、その瞳はこちらへは向いておらず。
もしかして、
その考えを振り払うように目を離した。
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