ドリーム小説
記憶を辿って81 虫愛する
昔から、虫が好きだった。
虫だけにとどまらず、ただ生き物が好きだった。
小さな体で必死に生きているところとか
小さな体に温もりを宿しているところだとか
心を見せればそれ相応のものを返してくれるところだとか。
そんな彼らが大好きで愛しくて。
この世界に生きていてくれることに対して、感謝の気持ちでいっぱいだった。
変な奴。
そう言われたのは数知れず。
それでも、それに怒りの感情を感じることなどなかった。
だって、人というのはおかしなものを虐げる傾向にあるから。
自分と違うものを恐ろしいと思う感情を持っているから。
人間として当たり前だ。
それでも、
『生き物が好きなのか?同じだな。私は豆腐が大好きだ。』
何の気なしのその言葉に
『変わってるって、人とは違うって言うことでしょ?僕はいいことだと思うけどなあ。』
ふんわり陽だまりのような優しい笑みに。
『竹谷に思われてる虫たちは、きっと幸せだね。』
懐かしげに、楽しげに細められたその目に
救われたのも事実で。
言葉を交わして以来、事あるごとにつるむようになった俺たち。
それは、とても自然なことのように思えて。
それは、とても気が楽で。
あったかい時間で
でも俺は
時折胸をよぎる焦燥感から目をそらしていたんだ。
ふわり現れた見たことないはずの下級生が、ずっと慣れ親しんでいた名前を呼ぶように不破をよんだ時。
ほとり、こらえるようなその瞳から透明な滴がこぼれおちた時。
走り出した彼女を追って勘右衛門が走って行った時。
その勘右衛門が泣きそうに笑って戻ってきた時。
そして、何よりその名前に
あふれ出た焦燥を止めるすべを俺は知らなくて。
でも、今ようやっとその意味がわかった気がする。
「なあ、勘右衛門」
蒼い空。
屋上。
俺の転寝を邪魔した声。
それはよく知っていて。
よく知っていた声。
くるくるまわる瞳も、
ふわふわ流れる髪も。
はっきりとは思いだせないけれど、知っている気がして。
「今のもっと詳しく聞かせてくれよ?」
驚いた顔で振り返った勘右衛門。
今の俺はお前の目にどういう風に映っているのだろう。
俺たちはもっとお互いのことを知っていた気がするんだ。
誰よりもずっとずっと。
俺たちは、もっとずっと昔にも___
その先が知りたいんだ。
※※※※
夢主が出ないという罠!!
back/
next
戻る