ドリーム小説





記憶を辿って82  むかしがたりをはじめませう












「今のもっと詳しく聞かせてくれよ?」


突然の声に驚いて、その気配に気がつけなかったことを嫌悪して。


そして、振り向いた先八左衛門がいたことに、泣きそうになった。



銀色のぼさぼさな髪。

それは風に微かに揺れて。

まっすぐな、鋭い瞳はただ真実を求め、俺を見ていて。


「竹谷。」

「なんだ?」

名を呼べば当たり前のように帰ってくる返事。



それがどんなにうれしいことなのか、なんて。


君はきっと知らない。


「___八左衛門。」

「っ、」


ずっと昔使っていた呼び名。

始めてこの世界で君をそう呼んだ。


それに、八左衛門は一度驚いたように目を見開いて。


そして次いで苦笑するように笑った。


「なんか、その呼ばれかたしっくりくるな。」


ぎゅう、と胸が締め付けられる。

嬉しくて嬉しくて、悲しくて。


どうしようもないくらいに、苦しい。


自分は知っているのに、相手は知らない。


それはずっと昔に理解して消火したはずの感情。



でも、それはずっと自分の中でくすぶっていたままで。


立ったままだった八左衛門を手招きすれば、不思議そうに近づいてくる。

目の前に座るようにいって、取り出したのは携帯電話。


発信先は、彼女。



誰にかけてるんだ?そんな八左衛門の問を無視しながら電話に出た彼女の声に安堵の息を漏らす。


「今どこ?」

「ん、屋上に来てほしいな。」

「違う、高等部。」

「うん、待ってる。」


端的な会話。

おそらく八左衛門には聞こえなかったであろうそれら。




でも、このことを自分だけで口にするのは怖すぎるから。


だから、助けてほしいと彼女を呼んだ。


「八左衛門。さっきの質問に答えてあげるよ。」



今の僕はちゃんと笑えているのだろうか。





そして屋上の扉が開かれた。



















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