ドリーム小説
記憶を辿って84 この世界に生まれ落ちる前に共に生きていたんだよ
滲む汗
乾く喉。
ようやっとたどり着いた屋上。
「勘右衛門先輩。」
扉を開いて見つけた先。
あった目がふわり柔らかく笑む。
「っ、?!」
ぶわり、
勘右衛門の笑みを見た瞬間。
今までの恐怖が全て涙になって溢れだす。
ぼとりぼとり、情けないほどに落ちていく雫。
慌てて勘右衛門が立ち上がったのがみえて、次の時にはは温もりに包まれていた。
あったかいそれに、涙は止まるどころか余計にあふれて。
「、、どうしたの?」
ゆっくりとあやすように背中をなでられて、支離死滅な言葉が溢れだす。
「っ、どうしてっ、どうして、」
頭に浮かぶのは、あのまったく感情のこもっていない目。
「どうして、ふわ、せんぱいっ、覚えてない、の!?」
それをさせた、あの人。
「あんなにっ、はちや、先輩がっ、」
わかっていても、感情が追いつかない。
「っ、うえっ、ふっ、」
ぼろぼろ溢れるそれを勘右衛門の胸に縋りつくことで止めようと必死になって。
「そうだね、。」
「はやくっ、思い出してよぅ・・・っ」
ふわり、頭の上に置かれた手。
それはわしゃわしゃとの頭をなでて。
「・・・え、」
頭がフリーズする。
勘右衛門の手は確かにの体に回っていて。
頭をなでられる体勢なんかじゃなくて。
「。」
その声は、ついこの間聞いたばかりの声。
「ほら、もう泣きやめ。」
ゆっくりと勘右衛門から離されて、ゆっくりと向き合うその人物。
銀色の髪がきらり太陽を浴びて光る。
「竹谷、先輩・・・?」
まだついていけていない頭をそのままに、にかりと笑った八左衛門はわしゃわしゃと再びの頭をなでる。
「ほら、泣き顔も可愛いけど、笑ってる顔の方が俺は好きだ!」
涙が止まった。
というか、思考回路がショートした。
「・・・八左衛門、とりあえずだまって。」
ため息と共に勘右衛門の言葉。
そこでようやっとは今の状態を認識する。
前から勘右衛門に抱きしめられながら、八左衛門に頭を撫でられている状態。
フリーズしたままの頭を慌てて回転させれば、ぶわり、湧き上がる羞恥。
「・・・ごめんなさい、勘右衛門先輩、竹谷先輩・・・。」
穴があったら入りたい。
どこぞの穴掘り小僧をこんなにも切望したのは始めてだった。
「ねえ、。」
顔を真っ赤にして縮こまるを笑いながら見る八左衛門と勘右衛門。
「・・・勘右衛門先輩、なんで私を呼んだんですか?」
勘右衛門の言葉に顔をあげれどにこにこと笑っているだけなのに、満を機して問う。
「あ、それ俺も思ってた。なんでだ?尾浜。」
尾浜 その呼び方に、彼が思いだしたわけではないことがわかって。
よりいっそう、意味がわからなくなる。
「がいてくれれば、話せそうな気がしたからだよ。」
まっすぐにに向けられる瞳。
それにようやっとここに呼ばれた意味を悟った。
いくら記憶があると言ったところで、それが本当かと人から疑われてしまったら、証明するすべがないから。
「それは、さっきが鉢屋の事を言ってたのに関係あるのか?」
ゆっくりと見上げたその瞳。
まっすぐなそれは、確かに真実を求めていて。
勘右衛門が、少しだけためらうようにを見るから。
はふわり、笑って見せる。
それに一瞬ぽかんとした表情を見せて、そして勘右衛門もふわり、苦笑した。
「八左衛門。俺たちはずっと昔、この世界に生まれ落ちる前に共に生きていたんだよ。」
放たれた言葉に、八左衛門はきょとりとした表情。
けれども次の瞬間、とても楽しげに笑った。
「なんだそれ!随分と面白そうな話じゃないか!」
勘右衛門が泣きそうに笑った。
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