ドリーム小説
記憶を辿って89 この記憶は咎である
無意識なのだろう。
そっと自分の横に目をやってはぐっと手を握り締め、あきらめたように目をそらす。
その場所にいるはずの影を探して。
それはおそらく、誰も気づけない。
不思議な行為。
尾浜あたりであれば気が付いているかもしれない。
だが、尾浜自身もなかなか鉢屋を見つけられないようで。
『あの二人は絶対に離れることはないと思っていた』
のその言葉には私も同意だった。
あの時、あんな世界でありながら、最後まで共にあり続けた二人。
名を知られてはいけないはずの世界で、双忍として名をはせていた二人組。
突如現れたとされる二人は、同じように突如姿を消した。
彼らに何があったのか。
それは闇に葬られたまま私にもわからぬが。
泣きそうに、無表情を貫く様はみていて痛々しい。
昔のように悪戯ばかりで上級生である私にも突っかかっていたころの方がよっぽどましだ。
あんなでも、大事な後輩には変わりなくて。
あの頃、天才とうたわれたその後輩は、その才の代償のように孤独であった。
それを救った彼が、この場所にいない
「鉢屋」
名を呼べば、ゆっくりと嫌そうに振り向く。
無視をされるかと思っていたがそう言うこともないようで。
「誰ですか。」
私が声をかけたということが、どういうことかわかっているだろうに。
それでも鉢屋は知らないふりをしようとする。
「久しぶりだな」
くつり
笑えばその表情はさらに嫌そうになって。
「何の用ですか。」
突き放すような言い方は、まるで不破に会う前の入学してすぐのころに戻ったようで。
「私と小平太だけだ。覚えているのは。」
ゆっくりと話しだした私に鉢屋は興味なさそうにため息をついた。
「だが、小平太は毎日文次郎たちに話しかけに行っている。」
鉢屋は一度も私の目をまっすぐとみようとしない。
「思い出してほしいそうだ。」
その言葉にようやっとかちあった瞳は、ただ、静かで冷やかであった。
「そうですか。頑張ってください。」
様々な感情を抑えるように、ただその一言だけを口にして鉢屋は踵を返した。
「逃げるのか?鉢屋。」
その背に投げかけた言葉にゆるり、首だけ振り向く。
「逃げる?何からですか?俺は何も__」
「不破雷蔵の記憶が戻って、そうして自分のしたことを認識するのが怖いのだろう?」
遮ってたたみかけた言葉に、じわり、広がる怒りの感情。
ふ、と息をする間に目の前に鉢屋の姿があって。
突如として伸ばされた手を、反射的に避ける。
「いらないことを、口にするな。」
その場所に広がっていく、怒り。
殺気。
体中を包むそれに、気分が高揚する。
あの頃慣れ親しんでいたこの気配。
今では感じることがないこれを、体中に浴びて、ただ、目の前のそれが、標的に、見えて。
「仙蔵先輩っ!」
呼ばれた名前に体が反応する。
首元に落とされそうになっていた手をさけて、鉢屋の後ろに回り込む。
ぐいと体をひねってこちらに振り向きざま振り上げられた足を軸足を払うことで避けて。
と、目の前に迫っていた腕に、咄嗟にしゃがむ。
その上からたたきつけるように落とされるこぶし。
反応が遅れたそれ。
気がついた時は第三者の手によってそれは防がれていた。
「また、お前か。」
ざわりざわり
さらに大きくなる殺気。
目の前の小さな体がびくりと震える。
だが、毅然とした姿勢で鉢屋と私の間に立ちふさがって。
「仙蔵先輩に、みんなに思い出してほしいと話したのは私です。」
わかっていたのであろうがその言葉に、くつり、いびつに歪む鉢屋の顔。
触れていたその手がゆっくりと離れた。
「思い出してほしいのか?自分が、相手を、手にかけていたのだと。」
放たれた言葉に、やっぱりそうだったのか。という感想だけが残って。
目の前の彼女も、ぐらり、揺れて。
「今現在、始めから記憶をもつものは皆、」
知っていた、気がついていた。
「誰かしら、共にあの場所で過ごしたものを殺しているんだ。」
この記憶は咎であると
※※※※
ずっと前から決めてた設定なのですが、出していいものかさんざん迷ってました。
ですがやっぱり出さないと書きたかったことが書けなかったので・・・。
かつての友達を、仲間を殺した人は記憶があるのです、ということ。
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