ドリーム小説
記憶を辿って90 この手は真っ赤に染まっていて
ぞくりとした、その気配に。
気がつけば体が動き出していた。
「気が向いたら鉢屋と話をしておいてやろう。」
それがあの日、仙蔵が帰る時ににかけた言葉だった。
そうして、今日。
彼の気配が、ひどく揺れて、ついこの間体験したばかりの殺気が、辺りにあふれた。
向かった先、見つけたのは二つの影。
片方から発される殺気。
もう片方もそれにつられるように。
「仙蔵先輩っ!」
走りながら、叫んだ名前。
振りあげられていた手を、避けるのが見えて。
辺りに広がる殺気は怖かったけれど、それよりもずっと、しなければいけないことがあって。
走ってたどり着いた時、素早く影のように動いていた二人。
けれども、仙蔵が押され、それに落とされそうになったこぶしを咄嗟に間にはいって止める。
じんじんと痛む手をそのままに、まっすぐに目の前の少年を、三郎を見つめ返す。
ひどく冷たいその瞳はただ、をまっすぐと見下ろしていて。
「また、お前か。」
その言葉に込められた意味がわからないほど無知ではなくて。
ぐっと、体に走る震えを抑えてその瞳を見つめ返す。
「仙蔵先輩に、みんなに思い出してほしいと話したのは私です。」
その言葉に、ふ、といびつにゆがめられた口元。
まっすぐと、の腕で押さえられていた掌が離れる。
「思い出してほしいのか?自分が、相手を、手にかけていたのだと。」
くつりくつり
喉からこぼされる笑い声。
真っ白になった頭が、理解を拒否する。
ぐらり。世界が揺れる。
「今現在、始めから記憶をもつものは皆、」
ずっと不思議だった。
なぜなんかに記憶があるのかと。
あの時あの学園で、ただ見ていることしかできなかったに。
「誰かしら、共にあの場所で過ごしたものを殺しているんだ。」
目の前の三郎が歪む。
浮かぶ 記憶
真黒い世界の中、赤く染まる掌。
目の前で傾いでいくのは一つの影。
最後刃を振り下ろした際に相手の顔を隠していた布が外れて。
目の前に現れたのは、六年間、共に、過ごしてきた、
大事な、
級友で、
親友で、
仲間で、
最後に彼女はふわり、笑って、そして
私の心は、その日流した涙と共に
姿を消した。
「っ、」
ぼろぼろぼろぼろ
溢れるのは痛み
零れるのは嗚咽
過去の自分がいらないと切り捨てた心が、
痛みをひどく訴えてここにあって。
頭の中、ずっと昔に封印したそんな記憶が、壊れて。
ふわあり
真っ暗になった視界。
後ろからまわされた温もりは、仙蔵のもので。
「。」
名を呼ばれれば、さらに涙が溢れて。
「忘れていたんだろ?自分の都合のいいように。」
三郎のその言葉が正解で、その記憶を忘れて、思い出せと、叫んで、
孫兵も、勘右衛門も、きり丸も、喜八郎も、小平太も、仙蔵も、三郎も。
その手で、友人を、仲間を殺した記憶を持っていて。
それを忘れたまま、思い出してほしいと、
なんて、身勝手。
自分が嫌で仕方がなくなる。
「。それでも私はお前に感謝している。」
落ち着いた低い声に、その言葉に、ゆっくりと思考が戻る。
温かな腕が、ゆっくりとを落ち着かせるように。
「お前が動き出さなければ、きっと何も変わらないままであった。だから___」
お前が鉢屋を変えてやってくれ。
耳元でそっと囁かれた言葉に、頷く。
ゆっくりと外された視界の先。
まっすぐとこちらを見ている三郎。
瞳に浮かぶ恐怖。
それはきっと、自分が手にかけてしまった友人を、恐れていて。
そしてその相手は___
「三郎先輩。」
ぐっと、痛みをこらえるように険しくなる表情。
「私はやっぱり思い出してほしいんです。」
いらぬことをいうなと、叫ぶくせに
「不破先輩にも。」
強がって
「じゃないと、三郎先輩が壊れてしまいます。」
一人じゃ生きれないくせに
「あなたは不破雷蔵と一緒にしか生きれないでしょう?」
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