ドリーム小説
記憶を辿って91 犯した過ちは大きすぎて
どうしたらいいのか。
それに答えはなくて
見つからない答えに、焦って焦って。
あの日、あの時。
が大粒の涙を流しながら俺に縋りついてきたときに、三郎をこのままにはしておけないと、決心できたんだ。
八左エ門が一歩踏み出してくれたから。
だから、先に進もうと思えたんだ。
あんなにも、後輩を大切にしていた三郎が、あの場所に入れたことを、ずっとずっと幸せだったと言っていた三郎が。
ずっと雷蔵と共に生きてきた三郎が。
これから先、ずっと一人で生きていくことなんかできないのだと、早く気付かせなければ。
「けど、どうするんだ?勘右衛門。」
「うん。どうしようか、はっちゃん。」
二人して廊下を歩きながら問いかけあう。
思い出してほしい。
そのためにどうすればいいのか。
はっちゃんに話したみたいに、簡単に思い出してくれればいいけれど、それはおそらく思いだしたい、知りたいという気持ちがなければできないことで。
「とりあえず、あの状態じゃ三郎は絶対に協力はしてくれないから。」
「三郎じゃなくて、雷蔵からどうにかしようか。」
「勘右衛門、竹谷。」
歩いていた先からかけられた声。
そちらを見ればさらり黒髪を揺らしながら兵助がこちらに向かってきていて。
「最近なんかよく二人でいるよな?なんかあったのか?」
俺とはっちゃんの前で、不思議そうに首をかしげる。
「ん、ちょっとな。」
はっちゃんと二人顔を見合わせて苦笑すれば、むっとした表情をして見せた兵助。
「・・・ずるい。」
「え?」
むすり、小さな声でつぶやかれたそれ。
「ちょ、兵助、重い重い!」
すぐ後にのそりと後ろから首に手をまわされて抱きつかれて。
ぐえ、と声が漏れるが兵助は気にもせず口を開く。
「ずるい、はっちゃん。勘右衛門は俺の幼馴染なのに。」
「兵助!首しまってるしまってる!」
ぎゅうぎゅうと腕を強くするものだから、首がしまってしまって。
「わー!!兵助落ち着け落ち着け!」
はっちゃんが慌てて兵助を引っぺがす。
「あ、ごめん、勘右衛門。」
「うん、大丈夫だよ、兵助・・・」
ちょっと、首が閉まって呼吸ができなくなったくらいだから。
「っ!?」
その時、体中を走ったのは慣れ親しんでいた感覚。
咄嗟に、兵助を背にかばうように窓の外に目を向ける。
はっちゃんも一拍遅れつつも姿勢を低く構えていて。
「勘右衛門?」
兵助の不思議そうな声に、ぎゅっと胸が痛くなる。
以前は兵助の方がずっと気配に敏感だったのに。
「三郎だ。」
ぽつり、窓の外を見てつぶやいたのははっちゃんで。
それに同じように窓の外を見たのは兵助だ。
ぴりぴりと肌を刺すその感覚。
感じる気配は二つ。
三郎と、そしてこれは
「立花先輩・・・?」
「あ、向こうからが走ってくる。」
兵助が言ったそれに気づいたら体が動き出していて。
「あ、おい、勘右衛門!?」
「はっちゃん、兵助連れて中庭に行くぞ!っ、雷蔵!お前もだ!」
「え、あ、ちょ?!」
走り出そうとした瞬間、目の前に現れた雷蔵の腕をひっつかむ。
「なに?なんなの?!尾浜?!」
「いいから来て!雷蔵!」
慌てる雷蔵を、あの頃のまま呼び付けて。
焦った声を背中に受けて。
それでもただ前だけを見て。
走った。
たどり着いたそこ、三郎と立花先輩の間に立ちふさがるようにがたっていて。
「また、お前か。」
三郎の鋭い声が、辺りに響く。
の体が小さく震えた。
それでも、ぐっと、姿勢を正して、まっすぐと三郎を見据えて。
「仙蔵先輩に、みんなに思い出してほしいと話したのは私です。」
きっぱりと、そう述べた声。
それに、殺気で溢れていた空気が凛と塗り替えられた気がした。
だというのに
「思い出してほしいのか?自分が、相手を、手にかけていたのだと。」
ぞくりと、背筋が凍りそうになった。
頼むから、言わないでくれ。
「どういう、ことだ・・・?」
後ろにいた八左エ門が口を開いた。
それに返すことなどできなくて。
「今現在、始めから記憶をもつものは皆、」
痛む、未だに、手に残る、あの時の感覚。
大事な、仲間を、かつての友を。
手のかけた、あの時の感覚。
「勘右衛門?」
そっと呼ばれる自分の名前。
「誰かしら、共にあの場所で過ごしたものを殺しているんだ。」
記憶の中の黒髪が、兵助と、重なる
赤が、紅が、この手を、染める
「勘右衛門。」
肩に置かれた手に、泣きそうになった。
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