ドリーム小説





記憶を辿って92 もう少し、もう少し













いきなり走り出した勘右衛門。

勘右衛門が投げ捨てた言葉どおりに兵助の手をとって走りだす。



驚きながらも引いた手の通り一緒に兵助がついてきてくれて。


「どうしたんだ?勘右衛門。」

戸惑いの言葉に、俺自身もなかなか答えることはできなくて。

「なあ、久々知。」

走りながら名を呼べば、小さく何だと返される。

「俺のことなんて呼んでたっけ?」

「・・・は?」

「いや、ちょっと思っただけだ。」

「竹谷」

怪訝そうな声でありながらもちゃんと返事はくれて。

でもその呼ばれかたに、感じた違和感。

ああ、やっぱりと思いながら笑いが漏れる。

くつくつと笑いながら走っていればぐい、と一度大きく腕を引かれて。

「うおっ、」

微かに体勢を崩しながら、兵助の前でなく横に並ぶことになる。

そして



「だけど、なんだかしっくりこないんだ。」


まっすぐとその瞳は前を見据えながら。

困ったように、迷ったように声を上げるものだから。

「ちょ、なにするんだ!?」

つないでいた手を解いて、その黒髪をわしゃわしゃと撫でる。

驚いた声をあげながら、振り払うことをしない兵助。

それが嬉しくて仕方がない。


「俺も、久々知なんて呼び方しっくりこないんだ!なあ、兵助!」

笑いながら名を呼べば、撫でていた頭がぴたりと戸惑うように静止して。



「・・・八左エ門・・・?」



ぱちりぱちり



その長い睫毛を瞬かせて、ゆっくりと俺を見上げてくる。

「八左エ門・・・。」

怪訝そうに眇められた瞳。

そっとおでこに手をあてて、何かを思い出そうとするように。


「兵助、行こう。」


再びその手を握って、そうして笑う。

もう少し、もう少し。


そんな予感がしたんだ。




















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