ドリーム小説





記憶を辿って93 ずっといいたかった言葉














ぱちりぱちり


まだ足りない。

何かが足りない。


もう少しで、本当にたどり着けそうな気がするのに。


八左エ門。


その名前は竹谷よりもずっとずっとしっくりきて。

まるでずっと昔からそう呼んでいるみたいで。


頭の中で響く、声。


八左エ門

三郎

雷蔵



そして___




「勘右衛門」


ゆっくりと止まっている勘右衛門の名を呼ぶ。

びくり、小さく震えたけれどそれだけで。


こっちを見てはくれなくて。


ねえ、どうしてこっちをみてくれない?

俺は、ここにいるのに。


名を、再び呼んで。

そっと肩に手を置けば。


ようやく振り向いてくれる勘右衛門。



けれども、その瞳は今にも泣きだしそうで

不安定で。




ああ、ああ!

泣かないで!!

泣かないでよ勘右衛門!




揺れる記憶


溢れる感情


ぶれる視界





かぶる映像





目の前、泣きそうに、否、大粒の雫を流しながら、


振り下ろされる、鈍色の、それは


赤く、赤く


俺に向かってきていて


でも、その向こうの月が


あまりにも綺麗で



その中で泣き続ける君のことが、大好きで、大切で、大事な仲間で



ごめんごめんと、その言葉が、胸に重くて、痛くて


ごめんごめんと、声にならない声で、俺に手を下させてごめんと、


謝ってお互いに謝って




ああ、お願い、もうそれ以上泣いたりしないで、


お願いだから、ねえ




勘右衛門、


ああ、ちがう、そうじゃない


君は、


勘ちゃん







「泣かないで、勘ちゃん。」



びくり、と目の前でその大きな瞳が、揺れた。


その衝撃でぼろりと雫が零れて。


「え、兵、助・・・?」


ぽかんとした表情を見せる兵助が、なんだかおかしくてしかたがない。


「俺は、勘ちゃんに最後をもらえてうれしかったよ。」


あの時、敵対する城につかえていて。


本当は、あの時ぼろぼろの勘ちゃんよりも、出てきたばかりの俺の方が強かったけれど。


でも、勘ちゃんを殺すのは嫌で。


だから、わざと、勘ちゃんに負けて。





「俺は、他でもない、勘ちゃんに殺してもらえたこと、ずっと嬉しかったんだ。」




そんな俺を殺してくれた。






ずっとずっと言いたかったこと、今なら言える。






「ありがとう、勘ちゃん。勘ちゃんのおかげで、俺はいまここにいる。」





その言葉に、決壊が壊れたみたいに、ぼろぼろぼろぼろ、勘ちゃんが泣き出した。





「お、そいよ!兵助っ!!」




飛びついてきたその体をぎゅうぎゅうお互いに抱きつきあって、笑って泣いて。


後ろにいた八左エ門が、笑う声が聞こえた。



後ろにいた、雷蔵が、俺たちの前に歩いていくのが見えた。




さあ、あとは、三郎雷蔵。




君たちだけだよ。




















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