ドリーム小説
記憶を辿って97 一人で生きていけるだなんて、嘘
「だから、なんだ!?」
突如響いた大声。
それは、今までずっと、うっすらとした笑みを浮かべたままだった鉢屋のもので。
叫ぶように、逃げるように。
「俺はもう、このままでいいんだ!!!」
かたんかたん
大きくきしんだその箱
「頼むからっ、もうっ、いらないことをしないでくれっ!!」
焦りを、いらだちを、悲しみを、苦しみを、いろんな思いがこもったその声。
「俺はっ、一人で生きていける!!」
その言葉は深く僕の胸をえぐった。
どうしてそんな悲しいことをいうのか理解できなくて。
僕が傍にいるのに、そんな言葉をいわれるのが悔しくて。
僕を見ている癖に、認識しれくれないことが悲しくて。
だから、だから___
僕はそのあとどうしたんだったっけ?
箱が、開く。
ぐるぐるぐるり
混乱
混 乱
こんらん
まざるまざる
みずいろ
あお
きみどり
むらさき
こん
ふかみどり
くろ
あか
いろが氾濫する
濁流のように押し寄せて
記憶が
まざる
あれはだれ?
ぼくばだれ?
ぼくとおなじかおをした、きみは
だあれ?
「俺は一人で大丈夫だ!」
『いい。一人で生きていける。』
かぶる 言葉
以前も聞いた、言葉
イタイ
いたい
胸が痛い
そんな言葉を、また君にのべさせてしまったことが、いたくてしかたがない
・・・また?
またって、なんだろう
だって、僕が君に会ったのは、この学校に入ってからはじめ、て、で・・・?
はじめて?
本当に?
それは、本当に?
かちり
その瞬間、まるでパズルのピースがかちりかちりとはまっていく感覚に襲われて。
思うよりも先に体が動いていた。
すこん
そんな軽いけれどダメージを受けそうな音を立てて、目の前の、僕によく似た髪質の頭をしばく。
「っ!?」
思ったよりもいたかったのか、しばかれた場所を掌で押さえながら彼はしゃがみこんで。
「っ、なんっで!?」
ぎゅう、とこみ上げる熱いものをこらえれば、声が面白いほどに震えて。
「っばっかじゃないの!?僕がいるって言ってんのに、なんでなんでっ!?」
意味のない言葉の羅列。
周りのぽかんと驚いた表情。
勘右衛門も、八左エ門も、いつもはあまり表情を変えない兵助も。
「っ、いつまでしゃがみこんでんのさ!」
「お前がやったんだろうが!?」
いつまでたっても立ち上がらない彼にしびれを切らしてふたたびすこんと頭をしばく。
慌てて立ち上がった彼は痛みからか目の端に涙をためていて。
「なんで!僕がいるのに、一人でいいとかっ、」
真正面から見たその顔に、こらえていたものがぼろぼろと溢れだす。
「そんな かなしいこと、いわないでよっ」
ぼろぼろぼろぼろ
目の前の彼が、三郎が、うろたえるのが見えて。
けれど涙は止まりそうもなくて。
「あ〜あ、三郎、雷蔵のこと泣かした。」
勘右衛門がため息と共に僕の前に立ちふさがった。
「大丈夫か?雷蔵。目をこすりすぎるなよ。」
そっと八左衛門が僕を覗き込むように声をかけて。
「三郎。」
最後に聞こえた兵助の、声。
「相変わらず、雷蔵と一緒じゃなきゃ駄目なんだな。」
その言葉にようやっと、皆で笑った。
僕とよく似た顔をして、今の僕とおんなじように眉をへにゃりとさげて。
泣いている僕以上に泣きそうで、そんな君が、ただ懐かしくて。
再び、会えたこと、
誰が何と言おうと僕は後悔していない。
再び、この記憶を持てたこと、
僕はなによりうれしく思う。
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