ドリーム小説
記憶を辿って98 俺は許されてもいいのだろうか
この記憶は咎である。
かつての俺は、忍であった。
六年間、箱庭で学んだ忍術を、その場所から飛び立って生き抜くための手段として。
そしてその場所で共に学んだ友と、一番の理解者と共に忍びとして生きていた。
いつしか俺とそいつは「双忍」とよばれていて。
互いで互いを必要として、依存して。
そうして俺は
自分のこの手で、誰よりも大事で共に生きたいと願っていた彼の命を奪った
再び目覚めた世界は、とても綺麗で、汚くて。
あいつがいない世界はただ、色あせていた。
どうして、思い出してほしいと言えようか。
この手で奪ったその命。
目の前、俺を庇うように立ったその胸から突き出る鈍色の刃。
一瞬でもう駄目だと思ったから、これ以上苦しまないようにとひと思いに振り下ろした刃。
今でも残るその感覚。
あの日、雷蔵を殺した瞬間、俺自身も死んだんだ。
「三郎先輩。」
「私はやっぱり思い出してほしいんです。」
「不破先輩にも。」
告げられるどれもが、まっすぐに胸に響くものだから、痛い。
「じゃないと、三郎先輩が壊れてしまいます。」
そんなこと、知っていたよ。
知っていたのに。
「だから、なんだ!?」
君がまっすぐと俺に言ってくるものだから、どうしようもなくなって、
叫んで、わめいて、子供のように。
泣いて泣いて泣いて。
全てを忘れてしまえればどんなに幸せかと思ってしまった。
「俺はもう、このままでいいんだ!!!」
わかってる、理解してる。
これが逃げているって言うことなんだと。
「頼むからっ、もうっ、いらないことをしないでくれっ!!」
それでも、それでもっ
「俺はっ、一人で生きていける!!」
あんな痛み、もう十分だ。
あんな記憶、知らないままでいてほしい。
そう思っていたのに。
「っ!?」
すぱん、と良い音。
はたかれた頭。
鈍く響く痛み。
「っ、なんっで!?」
後ろから叫び声。
「っばっかじゃないの!?僕がいるって言ってんのに、なんでなんでっ!?」
衝撃に支配されて、回らない頭。
でも、たったひとつわかること。
また俺が泣かせてしまった。
「っ、いつまでしゃがみこんでんのさ!」
「お前がやったんだろうが!?」
再び迫る痛みの気配に慌てて立ち上がって、そうして、まっすぐにみた雷蔵の顔。
この世界でようやくかちあった視線。
その黒い瞳に泣きそうな俺が映っていて。
「なんで!僕がいるのに、一人でいいとかっ、」
胸を突き刺すように叫ぶ。
「そんな かなしいこと、いわないでよっ」
ごめん
その言葉に生まれた感情はただそれだけ。
ごめん、
違った。
俺はずっと一人なんかじゃなくて。
ずっと、ずっと、一緒にいたのに。
ぼろぼろぼろぼろ
あまりにも綺麗な涙を流すものだから、俺自身も泣きたくなって。
「あ〜あ、三郎、雷蔵のこと泣かした。」
あんなにも突き放したのに、苦笑しながら勘右衛門が俺を見る。
「大丈夫か?雷蔵。目をこすりすぎるなよ。」
いつのまにか俺を知っていた八左エ門が笑ってる。
「三郎。」
この間廊下で会った時と同じ表情で名前を呼んだ。
「相変わらず、雷蔵と一緒じゃなきゃ駄目なんだな。」
再び会えて
再び記憶を持てて
どうしようもないくらいに嬉しいんだ。
雷蔵
君の笑顔が俺を癒す
全てを許してくれているみたいで。
これから先も俺はこの咎を持って生きていく
でも雷蔵が一緒にいてくれることで少しずつ許されていくような、そんな気がするんだ。
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