ドリーム小説
記憶を辿って99 向日葵の笑み
泣きながら笑いあう姿に、どうしようもなくほっとして。
そっと後ろに立ったままだった仙蔵を見る。
その目線の先は、眩しげに彼らを辿っていて。
でもその瞳の奥に潜む悲しみはずっとずっと深かった。
「仙蔵先輩」
名を呼べばこちらに向く瞳。
一瞬の陰りが嘘のように優しく微笑んで見せるものだから
苦しくなって。
「先輩は、知ってましたか?」
間に流れる静かなだけの空間が苦しくてそっと話しかける。
それに一度きょとりとした表情をした仙蔵はの表情を見てふ、と優しく笑った。
「知っていた。私のこの手が友の仲間の色に染まったことを」
ゆっくりと自分の手を見据えるその瞳は、陰り、暗い色を宿していて
「もちろん殺した相手も覚えているし、その感触も消えることがない。」
今ではただ日に焼けることなく真っ白な手は、過去の記憶を携えていて。
「お前は覚えていなかったのか?」
まっすぐにこちらを見て言われたことに、ずくりと胸が痛む。
今ようやく思い出したその記憶は、ただただ深い闇色を伴っていて。
この手が赤く染まった時、彼の親友は優しく笑っていた。
その意味を測り知れぬまま、はいまにいたっていて。
漏れた自嘲
それに悟ったように仙蔵の手が優しくをなでた。
「?仙蔵?」
不意に上から聞こえてきた声。
見上げれば窓から顔を出す小平太が見えて。
の表情を見て微かに眉を寄せる。
「っ、先輩?!」
ふわあり
その体躯を感じさせない身軽さで小平太はのそばへと飛び降りてくる。
「どこか痛いのか?大丈夫か?」
そっと手をの頭に乗せて、顔を覗き込む。
心配そうなその表情が、あまりにも似合わなくて思わず笑いが漏れる。
「なんだ、大丈夫そうだな!」
ようやっとにかり、いつもの笑みを見せて小平太は笑う。
それに同じように笑い返せば再び、今度は仙蔵から優しく頭を撫でられて。
「・・・七松、先輩・・・?」
あっけにとられたそんな言葉が似合う声がその場に響く。
それに三人そろって振り向けば、紺色のネクタイの5人がこちらを見てぽかりとしていて。
「おお!五年生たちじゃないか!」
ぱあ、とまるで向日葵が咲くみたいに笑うと小平太は五人に向かって走り出す。
「雷蔵危ない。」
「勘ちゃん。」
「うおおおっ!?」
すごい勢いのまま飛び込んでいった小平太。
三郎がひょいと雷蔵を持ち上げてその進行方向からのける。
兵助が勘右衛門の名を呼べば彼もひょいと体をのけて。
そして最後、進行方向に最後まで残っていた八左エ門だけが見事に巻き込まれた。
「・・・巻き込まれましたね、竹谷先輩。」
「ああ、見事にな。」
どさりとその重さのままこけた八左エ門の上にまるで大型犬のように小平太が乗っかっていて。
「久しぶりだなあ!竹谷竹左エ門!」
「いえ、竹谷八左エ門です、七松先輩。」
「元気そうで何よりだ!竹左エ門!」
「いえ、ですから八左エ門です。」
「細かいことは気にするな!」
「細かくないです!!」
まるでコントのような二人。
それでも、その姿はこの世界でずっと望んでいたものでもあって。
「くくっ。・・・なあ、。後輩たちがあんなに頑張ったんだ。次は私が頑張らなければな。」
楽しそうに声を上げる仙蔵。
次いで続けられたその言葉に、しっかりとは頷き返した。
back/
next
戻る